大規模修繕を控えた皆さんに向けて、修繕工事のいろはを説明していくこの連載。今回は大規模修繕で起こり得る「施工業者の倒産」について解説します。工事完了前に業者が倒産した場合に、管理組合がどのような不利益を被るかや対策方法について学んでいきましょう。
マンション管理組合最大のイベントである大規模修繕では、さまざまなトラブルが起こり得ます。工事で発生する騒音へのクレームや施工ミスなどの人が起こすトラブルのほか、悪天候による工期延長も考えられるでしょう。なかには、工事の中断を余儀なくされる深刻なトラブルもあります。
工事を中断させるようなトラブルの一つが、施工会社の倒産です。工事期間中に施工業者が倒産すると作業が止まってしまうので、管理組合は大規模修繕を完了するために別の業者を探さなければなりません。
また、倒産した業者から支払い済みの着手金や中間金を回収するのは、困難なケースが多いようです。回収ができなくても、新しく依頼する業者へ着手金や中間金の支払いが発生するため、本来計画していなかった費用の二重払いが発生し、予定していたよりも高額な修繕費用がかかるかもしれません。
さらに、代わりの業者を見つけて発注するまで工事が中断されるため、予定していた工期の遅延が避けられないでしょう。
このように、施工業者の倒産は修繕費の増加や工期の延長といった形で、管理組合や住民の悩みの種になります。損失を避けるためにも、業者選びは慎重に進めなければなりません。
「大規模修繕中に倒産なんてそうそうあるものではない」と思う人もいるでしょう。しかし、近年は人件費や建築資材の高騰により建設業界は苦境に立たされています。業者によっては、値上がり分を全額価格に転嫁して施工費を値上げすると受注が困難になるため、自社の取り分を削って仕事を受けているところもあるようです。
資材不足で作業が遅延した結果、予定していた入金サイクルに遅れが発生し、資金繰りが悪化するパターンも考えられます。また、職人の高齢化や成り手不足も経営困難に陥る大きな要因です。
帝国データバンクが発表したデータによると、2024年の日本国内の業界別倒産件数は1位がサービス業、2位が小売業で、次いで建設業が3位となっています。このデータにおける建設業界の倒産数は1890件で、同業界の過去十年間で最多でした。
業者の倒産で工事が中断する事態を避けるには、業者選定段階での施工業者についての情報収集が大切です。具体的には、候補の業者の実績や口コミを調べる、マンションの管理業務を委託している管理会社に相談する、などの方法が考えられます。どうしても心配な場合は、会計士に依頼して施工業者の財務情報を調べて貰うのも有効です。
施工業者の企業規模も倒産リスクの判断指標になります。先述の帝国データバンクのデータでは、2024年に倒産した建設業者は小規模事業者が大半を占めていました。全国展開するような企業規模が大きい業者は、余程の事情がない限り倒産しないでしょう。
ただし、大手の施工業者であれば倒産のリスクは少なくなりますが、中小規模の業者と比べると施工費用が高額な傾向にあります。規模が小さくても、健全な経営をしている企業もたくさん存在するので、管理組合内で相談して総合的に判断しましょう。
施工業者によっては、倒産してもそのあとの工事を保証する「工事完成保証制度」を利用できる場合があります。工事完成保証制度とは、業者の倒産などで工事が中断した場合に、制度の運営団体が代わりの施工業者を斡旋して、工事完了を保証する制度です。管理組合からすれば、代わりの業者を探さなくてすむので、もしもの時に大幅に手間を省けます。
保証される内容は施工業者が利用している制度の運営団体によって異なります。例えば、一般社団法人全国建物調査診断センターの場合は、支払った着手金や中間金の金額と作業の進捗に差があると認められると、損害分の金額が保証されます。また、工事を引き継ぐ施工業者の工事費用が、倒産した施工業者と契約した金額を超える場合にも保証を受けられます。
一般社団法人 全国建物調査診断センター | 大規模修繕工事完成保証制度一方で、運営団体や契約内容によっては金額保証の制度がない場合もあります。そのため、施工業者選定の段階で「保証制度を利用できるか」だけで判断せずに、保証内容の詳細を理解したうえで判断するべきです。
また、金額保証には上限額が設定されている点に注意しましょう。上限を超えた分は、管理組合が負担することになります。大規模修繕は非常に高額な費用がかかるため、上限額を超えて管理組合に負担が発生するケースは珍しくありません。
工事完成保証制度は、制度の運営団体から登録を受けた施工業者にしか利用できません。登録していない施工業者に依頼した場合は、工事の途中でその業者が倒産しても保証は受けられないので注意しましょう。
また、工事完成保証制度に登録を受けている業者であれば自動で保証を受けられるのではなく、管理組合から希望を伝えなければ保証が適用されない点にも注意が必要です。
この制度で保証料を支払うのは管理組合ではなく、修繕工事を請け負う施工業者です。施工業者からすれば制度を利用しないほうが利益が増えるので、積極的に制度の利用を奨励することはないと考えておきましょう。
今回は施工業者が施工業者が倒産したときのリスクや、その際に役立つ工事完成保証制度について解説しました。工事完成保証制度の保証料は施工業者が支払うため、管理組合からすればノーリスクで保証を受けられる有り難い制度です。
制度の利用を希望する場合は、施工業者が工事完成保証制度の登録を受けているかだけでなく、保証の内容も理解しておきましょう。
イラスト:平松 慶