マイホームを購入してから20〜35年——長い返済期間を乗り越え、ついに住宅ローンを完済されたご家庭も多いのではないでしょうか。
「ようやく住宅ローンを完済した」——それ自体は本当におめでとうございます。ただ、ここでひとつ大事なポイントがあります。ローンを全額返し終えても、それですべての手続きが終わったわけではありません。
「完済したから安心」と放置していた結果、数年後に売却や相続をしようとした際、「抵当権が残ったままで手続きが進まない」とお手上げ状態になってご相談に来られる方が後を絶ちません。
今回は、これまで1,000件以上の住宅ローン・不動産相談に乗ってきた専門家の視点から、完済後に必ずやるべき「抵当権抹消」や「火災保険の質権解除」、そして浮いたお金の賢い見直し方法までわかりやすく解説します。
ローンを完済すると、おおむね2週間〜1カ月で銀行から3種類の書類が届きます。一般的には以下の書類が一式として送られてきます。
この書類一式は、抵当権抹消登記を行うための必須書類です。届いたら紛失しないよう、1カ所にまとめて保管してください。
抵当権の抹消登記(抵当権抹消の手続き)は、自分で行うか司法書士に頼むかの2択になります。
|
比較項目 |
自分で手続きを行う |
司法書士に依頼する |
|
費用目安 |
約2,000円〜(実費のみ) |
約1.5万〜2万円(実費+報酬) |
|
必要な手間・時間 |
申請書の作成、平日に法務局へ行く(またはオンライン・郵送申請する)必要がある |
書類を渡して押印するだけでほぼ手間ゼロ |
|
メリット |
費用を最小限に抑えられる |
不備なくスムーズに手続きを進めやすい |
|
おすすめな人 |
平日に時間が取れ、自分で書類作成ができる人 |
平日に働いており、手間やミスを避けたい人 |
※登録免許税は不動産1件につき1,000円です(マンションの場合は土地+建物で2,000円〜、敷地が複数筆ならその数だけ加算されます)。
【現場からのアドバイス】引っ越しをしている方は要注意!
購入時から引っ越しをして住民票を移動している場合、抵当権を抹消する前に「所有者住所変更登記」という別の手続きが必要になります。これを知らずに自分で法務局へ行くと、書類不備で二度足踏みになるケースが多いため、不安な方は無理せず司法書士へ相談するのが安全です。
将来、家を売却する際に、抵当権抹消に必要な書類がすぐに揃わず、売買契約や決済が遅れる可能性があります。また、時間の経過により、金融機関の合併等に伴って追加書類が必要となる場合や、抹消書類を紛失してしまうリスクもあります。
なお、実務上は、住宅ローンを完済しているにもかかわらず抵当権抹消登記のみ未了であることを理由に、買い手が付きにくくなるケースは一般的ではありません。しかし、相続が発生した際に被相続人名義のままだと、相続登記と抵当権抹消の両方が必要になり、書類集めが一気に複雑化します。銀行から書類が届いたら、遅くとも3カ月以内に処理してしまうのが理想です。
住宅ローンを組むときに加入した火災保険は、質権(万一の火災時に、保険金が優先的に銀行に支払われる権利)が設定されている場合があります。
質権が設定されている場合、完済後に「質権解除」の手続きが必要となります。手続きを行わないと、いざ災害があったときに保険金の受け取りに時間がかかる恐れがあります(※質権が設定されていないローン商品もありますので契約内容をご確認ください)。
完済後に火災保険の継続契約があるなら、合わせて保障内容の見直しのタイミングです。築年数の経過に合わせて、個人賠償責任特約や水濡れ補償などの追加も検討してみてください。
返済が終わった分、毎月の支出は数万〜十数万円浮きます。この浮いたお金をどう活かすかが、老後の安心を左右します。
これまで万一の際にローンをゼロにしてくれていた「団信(団体信用生命保険)」の保障は、完済と同時に消滅します。残された家族に必要な生活費や医療費をカバーできているか、生命保険・がん保険の保障額を再点検しましょう。
これまでローン返済に回していた金額を、そのまま老後資金の形成へシフトさせます。NISAやiDeCoを活用した積み立てなど、無理のない範囲で資産運用へ回すのも選択肢の一つです。
築20年を超えると、外壁塗替えや水回り設備の更新など、数年単位でまとまった支出が発生しやすくなります。焦らないよう、毎月数万円を「リフォーム専用口座」へ積み立てておくのがおすすめです。
完済は終わりではなく、住まいと暮らしの「次のフェーズ」の始まりです。
とくに相続準備は、ご自身が健康で判断力のあるうちに整理しておくのが望ましいとされています。完済直後の数年間は、将来に向けた見直しを行いやすいタイミングの一つです。
松隈 秀樹(カシワバラ・アシスト 銀行代理事業室 室長)
貸金業務取扱主任者・宅地建物取引士・不動産コンサルティングマスター
2011年カシワバラ・アシスト入社/住宅ローン相談 累計1,000件以上
「ご返済が完了したお客様からよくいただくのが、『これで一安心』というお声です。ただ、抵当権が登記簿に残ったままだと、いざ売却や相続のときに手続きに時間がかかる原因となります。私たちは登記の専門家とも連携して、完済後の手続きをワンストップでサポートしています。」
A. 現時点で抵当権抹消手続き自体に明確な申請期限や罰則(過料)はありません。しかし、放置すると銀行からの委任状の有効期限が切れたり、将来の売却・相続・担保設定の際にスムーズな手続きができなくなったりする可能性があるため、書類が届いたら速やかに手続きを行うことをおすすめします。
A. 購入時からお引っ越しをされて住所が変わっている場合は、住民票(または戸籍の付票)が必要になります。また、法務局のホームページからダウンロードできる「抵当権抹消登記申請書」を作成して添付する必要があります。
完済しても、抵当権抹消・火災保険の質権解除・お金の再配分など、やるべき重要なステップが残っています。
無理のないペースで、銀行から書類が届いたタイミングを目安に、計画的に手続きを進めていきましょう。
抵当権抹消の手続きに関するご案内など、住宅ローンのプロフェッショナルとして完済後も安心していただけるよう幅広くサポートいたします。住宅ローンに関するお困りごとや気になる点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
松隈 秀樹
カシワバラ・アシスト 銀行代理事業室 室長
【保有資格】
貸金業務取扱主任者・宅地建物取引士・不動産コンサルティングマスター
【経歴】
2011年カシワバラ・アシスト入社。住宅ローン分野では累計1,000件以上の相談実績を持ち、フラット35やドコモSMTBネット銀行をはじめとする商品知識に精通。前職の不動産仲介で培った1,000件以上の取引実績も活かし、ローンの資金計画から不動産取引の法規制・契約実務まで、お客様のライフプラン全体を見据えた最適解の提案を専門領域とする。
【読者へのメッセージ】
完済はゴールではなく、次のライフフェーズのスタートです。抵当権抹消・火災保険の見直し・お金の振り分け・相続準備まで、ご自宅という大きな資産を未来に活かすための手続きはまだ続きます。住宅ローンと不動産の両面から、お客様のこれからのライフプランを支える視点でご相談に乗らせていただきます。