マンションは紫外線や風雨などにより経年劣化が進むため、定期的な修繕を行います。そのために修繕費の拠出は避けて通れません。連載5回目の今回は、この修繕費について定義や不足した場合の対応などを紹介したいと思います。
外壁の劣化や設備の故障など、マンションの共用部分で不具合が生じた場合、管理組合の判断のもと回復工事が行われます。その工事で発生する費用が「修繕費」と呼ばれます。
修繕費の用途は、大きく分けて2種類。1つは「経常修繕(=補修・小修繕)」といい、ドアの故障や外壁タイルの剥がれの補修など、必要に応じてその都度行われる小規模な修繕で発生する費用。そしてもう1つは「計画修繕」で、外壁塗装の塗り替えや屋上防水の補強など、大規模修繕のように計画的に行う大がかりな修繕に利用されます。
修繕費は、マンションの購入費用とは別に住民が毎月支払う「修繕積立金」や「管理費」などでまかなわれます。経常修繕は管理費、計画修繕には修繕積立金を利用するのが一般的。しかし明確に何を経常修繕とし、計画修繕とするかの詳細は各マンションの管理規約によって異なります。
なお基本的に専有部分の修繕に関しては、修繕積立金ではなく区分所有者(マンション購入者)自らが負担します。
以下で、修繕費の例を改めて整理してみましたので、ぜひ参考にしてみてください。
・宅配ボックスやインターホンなどの設備の修理
・ビルやエレベーターなどのメンテナンス
・OA機器などの保守
・外壁の塗装
・屋上防水の補強
・建物の点検・整備
・共用部に設置してあるパソコンなどの修理
・部品の取り換え
・床の張り替え
大規模修繕などの大がかりな工事で必要となる修繕費は、区分所有者が月々拠出する修繕積立金によって負担します。マンションの劣化具合や規模によって必要な修繕費の額は当然異なりますから、修繕積立金の額も自ずと変わってきます。
では大規模修繕に向けて修繕費を用意するために、各住戸が納める修繕積立金はどのぐらいの金額が適正なのでしょうか。
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」で、各区分所有者が納める修繕積立金の目安(月額)を公表しています。金額の目安については、建物の階数や延べ床面積(各階の床面積の合計)によって異なりますが、専有部分1㎡当たり月額178〜218円程度。前述したように、必要となる修繕費の額はマンションによって異なるわけですが、基本的には長期修繕計画作成ガイドラインをもとに算出した金額を積み立てていくと良いでしょう。
なお、修繕積立金の相場や不足した場合の対応について、以下の記事でも詳しく解説しています。
次に、マンションの共有部ではどのような修繕が必要になるのでしょう。ここでは、工事箇所ごとに紹介していきます。
【屋上】
塗装・防水処理の劣化により、雨水の浸水が生じるリスクがあります。代表的な屋上防水の工事方法として挙げられるのが「アスファルト防水」。アスファルトを含ませてコーティングしたシート状の防水材料を、貼り重ねていくものです。
【外壁】
経年劣化が一目でわかるのが外壁ですが、塗装工事を行うことによって見栄えを良くしていきます。使用する塗料の種類はアクリル系・ウレタン系・シリコン系など多数あり、耐用年数も異なります。そのため耐用年数の長い塗料を使用するほど、2回目以降に実施する外壁塗装工事の周期も長くなり、結果的に修繕費を抑えることにつながります。
【給水管・排水管】
給水管・排水管は劣化すると漏水につながるため、管の耐用年数や建物の築年数に準じて診断を行います。そして診断の結果、工事が必要となった場合は、一部もしくは全体を新しい配管に取り替える作業を行います。
修繕費は基本的に共用部の修繕に用いられることは前述した通りですが、そもそも「共用部」と「専有部」はどこで線引きされているのでしょうか。
まず「専有部」は各区分所有者が個別に所有するスペース。一方で「共用部」とは、専有部以外で区分所有者全員の持ち物として扱われるスペースのことです。例えば、エレベーターホールやエントランス、宅配ボックスなどが該当します。
とはいえマンションには、共用部なのか専有部なのかがわかりにくいグレーゾーンが存在します。
とくにその筆頭が、専有部と共用部の中間にあたるバルコニー・窓・玄関ドアなどです。まず、バルコニーについては、専有部と思いきや多くの場合共用部とみなされます。実は、窓も共有部です。そのため、バルコニーを勝手に飾り付けたり、窓のガラスを変えたりといったことは、個人の判断ではできません。
ちなみに玄関ドアは、外側が共用部、内側が専有部になります。ドアの内側は個人の自由に装飾できますが、外側を勝手に変更することはNGとなります。
大規模修繕工事は一般的に10〜15年の周期で実施しますが、前述した通りその費用は高額です。毎月積み立ててきた修繕積立金だけではまかなえず、不足してしまうケースも十分考えられます。
では、足りなくなったときには、どうすれば良いのでしょうか。
真っ先に思いつくのが、修繕積立金の積立額の値上げかもしれません。現状の積立金で修繕費を捻出することが難しいとわかったら、マンション所有者が参加する総会で修繕積立金の積立額の値上げに関して決議を実施します。そこで折り合いがつかなければ、別の方法を考えるしかありません。
例えば長期修繕計画を見直して、急ぐ必要のない一部の工事を延期することで、当面は全体の費用を抑えられる可能性もあります。さらにマンションの修繕に利用できるローンや助成金なども検討したいところ。
代表的なローン商品としては、住宅支援機構が提供する「マンション共用部分リフォーム融資」など。分譲マンションの大規模修繕工事費用が対象となります。また助成金の内容については建っている地域によって異なるため、事前に各市区町村の公式ページをチェックしてみましょう。
修繕工事を行った費用のうち、資産価値や機能の向上を目的として行われたものは「資本的支出」として仕訳されます。
資本的支出は税金の計算上、減価償却を行い、複数年にわたって計上します。修繕というよりむしろ、新しく資産を得たのと同様の処理になるのです。
防水工事や電球の取り替えなどは機能の向上には当たらないため修繕費として計上できますが、事務所用から店舗用に改装したり、バリアフリーの手すりやスロープを取り付けたりする工事は資本的支出と見なされます。
詳しくは下記で解説しているので、参考にしてみてください。
マンションの修繕を放置してしまうと建物の劣化が進み、入居希望者の減少にもつながりかねません。そのためにも修繕費は計画的に積み立てながら、住みやすいマンションの維持に役立てていく必要があるでしょう。
次回は「管理組合」をテーマに、役員や理事会の役割などについて紹介していきます!
イラスト:大野文彰
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