
マンションは、多くの人がひとつ屋根の下に暮らす集合住宅。適切な管理をしていかなければ、快適性や資産価値を保つことはできません。
そこで重要になるのが、「マンション管理会社(以下、管理会社)」の存在です。管理会社は、清掃や点検など、マンションの維持や管理に関するサポートを行う役割があります。
連載3回目では、マンションの管理組合が知っておくべき管理会社の業務内容や委託方法などを解説。あわせて「管理会社を見直したい」と考えている人に向けて、その選び方も紹介していきます。
そもそもマンションの管理会社とは? 管理組合との違い
管理会社とは、管理組合から委託を受けてマンションの運営・管理を行う会社を指します。
管理組合とは、区分所有法の定めに従い、原則マンションの区分所有者全員で構成される運営・管理の団体です。意思決定や情報共有の場として、年に1度の総会開催が義務づけられています。
マンションの運営・管理は本来管理組合全員で行う義務がありますが、意志決定を円滑に行うため、代表者を募って理事会を組織します。総会の開催や決議事項の検討を行うのは主に理事会です。
とはいえ、理事会のメンバーをはじめとする管理組合員は、マンション運営とは異なる本業に就いているケースがほとんどです。そのため、マンションを販売したデベロッパーの系列会社など運営・管理の専門知識を持つ業者に、実質的な業務を依頼します。こうした委託先となる会社を管理会社と呼びます。
委託には管理委託契約が必要
全部委託方式または一部委託方式をとる場合には、管理組合と管理会社で「管理委託契約」を結びます。
委託契約書のひな形は国土交通省「マンション標準管理委託契約書」を確認してみてください。
マンション管理会社の業務は4つに分かれる
管理会社の具体的な業務は、おおまかに次の4つ分類されます。
1.事務管理業務
2.管理員業務
3.清掃業務
4.建物・設備管理業務
では、その業務内容を1つずつみていきましょう。
1.お金の管理がメインの「事務管理業務」
管理会社のとくに大事な業務のひとつが、事務管理業務です。事務管理とは主に、マンションの会計に関わる全般のことを指します。住民(マンションの所有者)から納められる管理費や修繕積立金を管理し、滞納や未払いに対する督促を行ったり、会計書を作成したりします。
会計状況を理事会や総会で報告することも、業務のひとつです。また、12年~15年に一度の大規模修繕に向けた計画や、実施にともなう予算管理なども行います。
2.訪問者の受付対応などを行う「管理員業務」
マンションのエントランスには多くの場合「管理員」がいますが、この人も管理会社から派遣されます。
管理員の業務内容や勤務時間はマンションによって異なりますが、訪問者の受付や対応・備品管理・建物の巡回・業者との立ち会いなどが基本的な業務となります。
3.「清掃業務」として共用部の掃除も行う
マンションの共用部の清掃も、管理会社の業務に含まれます。共用部とはエントランス・廊下・ゴミ置き場・階段・エレベーター・駐車場などの場所を指します。
日常的な掃除やゴミ回収、業者や専門機材を用いた週1回から月1回程度の掃除などを、定期的に実施します。
4.「建物・設備管理業務」では設備のメンテナンスを実施
管理会社は、共用部だけでなく専有部にある設備の保守点検や法定点検など、メンテナンスも行います。
法定点検とは、法律で点検期間や回数が定められている点検のことを指します。エレベーターや給水設備、排水設備などは法定点検が定められている代表的な設備です。
マンション管理会社への3つの業務委託方式
続いて、管理会社に業務を委託するときの方法を紹介していきます。
大きく分けると次の3通りの方法があります。
1.全部委託方式
2.一部委託方式
3.委託しない(自主管理)
つまり、どこからどこまでの業務を委託するのかということ。3つの委託方法には、それぞれメリット・デメリットがありますので、ここから詳しくみていきましょう。
「全部委託方式」のメリット・デメリット
「全部委託方式」とは、その名の通り、マンションの管理業務を一括して管理会社に委託する方法です。

管理業務をすべて任せることができるため、当然ですが管理組合やマンションの住民の負担は一番少ない方式となります。理事や役員が変わったとしても、理事会の構成メンバーに左右されずに、管理の質を一定に保つことができるでしょう。
一方でラクな反面、管理会社に任せきりになってしまうことで、所有者や住民の意思で「マンションでの生活をより良くしていく」といった意識が薄れてしまいがちです。総会への出席率が低下したり、重要な意思決定の場で意見を出す人が少なくなったりといった懸念があります。
全部の業務委託をするといっても、マンションの管理に関する最終的な意思決定を行うのは、実際にマンションの所有者であり、住む人たちであることは認識しておきましょう。
「一部委託方式」のメリット・デメリット
一部委託方式とは、管理業務の「すべて」ではなく「一部」を委託する方法です。全部委託方式では、設備点検や清掃など「管理会社が実際に行うわけではない業務」についても、専門業者への発注などを管理会社に代行してもらいます。
しかし一部委託方式では、管理組合が各専門業者を手配もしくは自らが業務を行うため、管理会社には「管理会社が実際に行う業務のみ」を委託するのが一般的です。

一部委託方式において、清掃などを外部の専門業者に依頼する場合は「直接契約」となるため、間に入る管理会社がいない分、中間マージンは発生しません。つまり、マンション管理にかかる費用を抑えることができます。
ただし、当然ながら管理組合は各専門業者を選択・発注する負担などが増えることになります。実際に発注業務を担うのは多くの場合、理事会役員のメンバーかと思いますが、発注する人によってマンション管理の質が上がったり下がったりしてしまう可能性もあるかもしれません。
管理会社に委託しない「自主管理」のメリット・デメリット
管理会社に一切業務を委託しないで、住民自らが管理を行う、もしくは必要に応じて専門業者に発注することを「自主管理」といいます。

清掃や点検、修繕の業者を自由に選んで直接契約ができるなど、中間マージンが発生しない分、管理や修繕にかかる費用を安く抑えられるのが自主管理の一番のメリットです。
一方で、管理会社にまったく業務を委託しないとなれば、管理組合や理事会の業務負担はかなり大きくなります。また、理事会役員を担う人に知識や統率力、交渉力など相応の能力が不足していれば、建物や設備の維持困難や機能低下にもつながりかねません。
マンションの管理不全は日々の生活以外にもマンションの資産価値低下を招く重要な問題となりうるため、自主管理としてやっていけるかどうか、理事会や総会で慎重に議論する必要があるでしょう。
管理会社にクレーム対応も任せられる
騒音や水漏れは住民どうしでトラブルになりやすい要素のひとつ。ベランダでの喫煙やゴミ捨てルールといった共用部分の使い方に関するクレームも考えられます。
こうした住民への対応は、基本的に理事会をはじめとする管理組合で行う必要がありますが、対処の仕方によってはトラブルを悪化させてしまう可能性もあるでしょう。
第三者でありマンション管理のノウハウを持つ管理組合が間に入ることで、円滑な対処が期待できます。
管理会社は大きく2つのタイプに分かれる
ここまで業務内容や委託方法について解説してきましたが、ここからは、管理会社のタイプについてお話していきます。
管理会社を大きく分けると、次の2タイプとなります。
1.デベロッパー系管理会社
2.独立系管理会社
管理会社のタイプによって特徴や強みは異なりますので、ここから詳しく解説していきます。
グループ企業に建設会社を持つ「デベロッパー系」
「デベロッパー系」とは、グループ企業に不動産開発会社や建設会社を持っている管理会社です。例えば〇〇不動産が建設したマンションの管理を〇〇不動産パートナーズが行う…といったように、グループ企業が土地開発から施工・販売・管理までを一貫して担うのが特徴となります。ただ、どのマンションも、管理会社を決める権利は管理組合にあります。必ずしも、そのマンションの開発・施工・販売をしたグループ企業のデベロッパー系管理会社に委託する必要はないといえるでしょう。
とはいえ、グループ企業の管理会社であればマンションの構造や設備に関する情報が取得しやすいため、不具合やトラブル時の対応などもスムーズに解決できる可能性があることは確か。またデベロッパー系の管理会社はいわゆる「大手」が多いので、経営基盤が安定しており、管理の質に差異が少ないこともメリットとして挙げられるでしょう。
デメリットとしては、独立系の管理会社と比較して委託費が割高になるケースが多いこと。他社と比較されるケースが少なく、価格競争が起こりにくいことも、割高になる要因として考えられます。
委託費が比較的安く抑えられる「独立系」
一方で独立系は、グループ企業として不動産開発会社や建設会社などを持たない管理会社のこと。独立系の特徴は、グループ企業から管理物件の依頼が半ば自動的に来ることがないため、物件の獲得のために価格競争が働きやすく、自社を選んでもらうための工夫にも注力しているということ。
そのため管理組合側からみると、委託費を比較的安く抑えることができ、住民目線の柔軟な対応をしてくれる傾向が強いといえます。
信頼できる管理会社を選ぶポイントは2つ!

では「管理会社を見直したい」と思ったときに、どうやって選ぶのが良いのでしょうか。
ここでは、選ぶときに意識したい2つのポイントを紹介していきます。
1.見積もり金額とプレゼン内容を照らし合わせる
「費用」は比較する上で一番気になるところですが、かといって安ければ良いというものでもありません。
当たり前ですが費用とともに見ておかねばならないのが、管理の内容と質です。管理会社を検討する際は、必ず複数社から見積もりをとり、そのうえで管理の内容についてプレゼンテーションを受けることをおすすめします。見積もりの金額とプレゼンの内容を照らし合わせながら、複数社を比較してみましょう。
2.管理会社と「担当者」の両方を見て判断する
どの業種にもいえることですが、管理会社も「大手だから」「デベロッパー系だから」安心とは限りません。会社はたとえ同じであったとしても、サービスの質は、担当者の経験や知識(保有資格)、能力によっても大きく異なります。もちろん担当者に不満があれば、変更を申し入れるべきですが、まずは管理会社を選ぶ際にも「会社」と「担当者」の両方で判断するようにしましょう。
また日々の管理業務や費用面だけでなく、資産価値を左右しかねない「長期修繕計画」の立て方についても確認しておきたいところ。管理会社によっては、「修繕計画は一度立てたら終わり!」とするケースもあるようです。
計画の立て方を確認する際に見るべきは、次の3つ。
・修繕計画を定期的に見直せるのか?
・修繕時には外部の専門家と協力できる可能性もあるのか?
・修繕工事は複数の専門業者に見積もりをとり、選ぶことができるのか?
以上のことを確認したうえで、住民目線で管理業務を行ってくれる会社・担当者かどうか、検討していきましょう。
管理会社の探し方
管理会社を選ぶまたは見直すなら、比較サイトを参考にすると良いでしょう。一つひとつホームページを見ていくよりも簡単に複数の管理会社を調べられます。気になる管理会社を選んで一括で相見積もりをとれるサイトもあるので、ぜひ活用してみてください。
また、付き合いのある不動産会社に紹介してもらうのも一つの手です。ただし、紹介先の管理会社から仲介料をもらっている場合もあるため、紹介してもらった管理会社が本当に自分たちのマンション運営に適しているかは、しっかりと見極める必要があります。
管理会社の受託戸数は約627万戸!
令和3年度の一般社団法人マンション管理業協会の調査によると、協会会員である管理会社353社が受託しているマンション数は約10万組合・約12万棟で、戸数にすると626万7047戸となりました。
前年比でみると、組合数は1.6%増、棟数は1.3%増、戸数は1.5%増と、いずれも増加しています。
国土交通省が公表している分譲マンションの戸数が約685.9万戸(2021年末時点)である点を踏まえると、約9割のマンションが管理会社に委託しているといえます。
マンションの管理会社を調べるには
理事会や総会に参加している区分所有者であれば、管理会社の担当者とやりとりする可能性もあります。もし、普段管理会社を気にしていない住民がマンションの管理会社を知りたい場合は、下記のような方法があります。
・重要事項説明書や区分所有者変更届の写しを確認する
・管理人や理事会に問い合わせる
・「マンション名 管理会社」で検索する
自分たちに合った委託方法を慎重に検討しよう
管理会社への委託方法は、「全部委託」から、委託しない「自主管理」まであります。委託方法によって、費用や管理組合の負担量も変わってくるため、メリット・デメリットを踏まえたうえで、自分たちに合ったやり方を慎重に考えていきましょう。
なお管理会社を選び際は、会社だけでなく担当者の経験や保有資格までを加味したうえで、総合的に判断していきましょう。
次回は「区分所有法」をテーマに、その内容や成立した経緯などについて紹介していきます!
イラスト:大野文彰