マンションの修繕コストは右肩上がりに上昇しています。1戸あたりの工事費は12年で約6割も増額しており、以前の予算感覚のままでは、適切な工事の実施が難しくなっています。
世間一般の物価上昇を上回る工事費の高騰は今後も続く見通しです。本記事では、コスト急増の背景と大切な資産であるマンションを守るために管理組合が取るべき対策を解説します。
マンション大規模修繕のコストを10年前と比較

マンションの維持管理を巡る状況はこの10年で大きく変化し、修繕にかかるコストは右肩上がりに上昇しています。一般財団法人経済調査会によると、1戸あたりの修繕費の平均額は、2013年時点の93.5万円から、2023年には129.9万円へと増加しました。さらに2025の年データでは150.6万円となり、12年ほどで、1戸あたりの工事費が約6割(約57万円)も上昇している計算です。
工事内容ごとの推移を詳しく見ていくと、とくに「仮設工事費」が大幅に上昇しています。仮設工事費は足場の設置や現場の安全確保にかかるコストで、どの修繕工事でも必ず発生します。コストが急増した背景には、足場に関する法令・安全基準の強化、燃料費の高騰による資材運搬費の上昇、人件費の上昇といった要因があり、社会の変化が反映されているといえます。

修繕積立金の上昇率との違い
国土交通省の調査によると、マンション1戸につき修繕積立金の月ごとの平均額は、2011年度の月額1万4210円から2021年度には2万1420円へと、約10年間で5割ほど上昇しています。

積立金の引き上げは、工事費高騰に連動して起きています。しかし、工事費は直近12年で約6割も上昇しており、工事費の急激な伸びに対して、積立金の増額ペースが追い付いていない傾向があるようです。今後は、単に工事費の上昇に合わせて積立額を変動させるだけでなく、社会情勢によるコストへの影響を正しく把握したうえで、所有しているマンションに適した積立水準を検討する視点が重要となります。
特に影響が大きいのは資材と人件費の高騰
マンション大規模修繕のコスト上昇の原因として特に大きいのは、「建設資材価格の高騰」と「人件費の上昇」の2つです。
日本建設業連合会のデータによれば、マンションの工事費の約9割は、資材費と労務費が占めています。一般的な内訳は、建設資材費が50~60%、現場の労務費が約30%であり、残りの10~20%ほどが施工会社の経費や利益です。この比率にもとづくと、2021年から2025年までのわずかな期間で、工事費全体の平均は約25~27%上昇しています。
建設資材価格の高騰
建設資材価格は、2021年から2025年にかけて約37%上昇しました。建設物価指数(東京)の推移をみると、土木部門で41%、建築部門でも37%の上昇となっています。
2021年と比較すると、ビニル絶縁電線は約110%、アルミ地金は約90%、板ガラスは約80%上昇しました。また、配管用鋼管や生コンクリートも約70%と大幅に値上がりしています。これらの資材はマンションの機能を維持するために欠かせません。このような、代わりのきかない資材の高騰が工事費全体を押し上げている大きな要因です。
マンションの工事費全体の約半分から6割を資材費が占めているため、資材の高騰は工事費全体に非常に大きな影響を与えており、主要な資材の値上がりだけで、全体のコストが約20%も押し上げられている計算となります。
資材価格高騰の背景には、世界的な原料や原油の不足、エネルギー価格の上昇、さらに円安の影響があります。国際情勢の変化による資材の供給不足や、物流の停滞も価格を押し上げる要因となりました。現在も建設需要の増加に対して供給が追いつかない状況が続いており、一度上がった価格が下がりにくい状況になっています。
労務費の上昇

建設業界の賃金は2021年から2025年の間で約22.9%上昇しています。
2021年と比較すると、配管やダクトの設置などを行うダクト工は約30%、交通誘導警備員は約30%、電工は約30%上昇しました。また、特殊車両の運転手や配管工も約20%から30%の大幅な賃上げを記録しています。人件費高騰の背景には、職人の高齢化や成り手の減少による人材不足、賃金を上げなければ人材の確保が難しい現状があります。
また、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制、いわゆる「2024年問題」への対応も大きな転換点となり、週休2日の確保や適正な工期設定に応じた人員配置が必須となりました。労働時間の制限は工期の延長に直結し、結果としてさらなる労務費高騰の要因となっています。
現在、国は公共工事の予算を立てる際の目安となる労務単価を引き上げており、発注者に対して、新単価にもとづいた適正な工事費での契約と、技能労働者へのさらなる賃上げを求めています。こうした適正価格での契約と賃上げの流れが民間工事にも波及しており、労務費の上昇の要因となっているのです。
マンション大規模修繕のコスト上昇率と物価上昇率・インフレ率との比較
一般的に語られる物価上昇率やインフレ率は、私たちの生活に身近な食品やサービスなどの価格変動を示す指標です。これらは家計に関わる幅広い分野の平均的な値動きを反映していますが、建設分野のような業界特有のコスト上昇を直接表しているわけではありません。
総務省の「2020年基準消費者物価指数」によれば、世間一般の物価を示す総合指数は2020年から2025年にかけて約13%上昇しています。一方、先ほど触れたマンションの建設コストは約37%も上昇しており、建設分野の値上がりは一般的な物価上昇率を大きく上回る勢いで進んでいるとわかります。
世の中がインフレだから工事費が上がるというよりは、建設業界特有の激しい価格高騰が起きているといえるでしょう。
今後マンション大規模修繕のコストは下がる?

今後の見通しとして、マンションの大規模修繕コストが短期的に下がる要因は見当たりません。人件費の面では、国を挙げた賃上げの継続方針や、担い手確保のための処遇改善が進められており、労働コストの低下は見込めません。
また、資材価格も世界的な原料不足やエネルギー価格の上昇を受け、依然として高止まりしています。
一度上がった価格が下がりにくい状況が続いているため、工事費の低下を待って実施を先送りするよりも、現在のコスト状況を前提とした早めの資金計画の見直しが重要です。
マンション大規模修繕のコスト上昇に対して管理組合が取るべき対策

コスト上昇に対応するために、まずは、長期修繕計画を現状の物価や人件費に合わせて見直す作業が必要です。
数年前に作成された計画では、現在の急激なコスト高騰に対応できず、将来的に資金が不足する恐れがあります。
あわせて、不足分を補うための修繕積立金の値上げを検討するのも大切です。早めに資金計画を修正すれば、建物の資産価値を守るために必要な工事を適切な時期に実施できるようになります。
長期修繕計画を現状に合わせて見直す
修繕計画を最新の情勢を踏まえてアップデートしなければ、実際の工事費との乖離が生じやすく、将来的な修繕積立金不足につながるおそれがあります。
そのため、定期的な見直しを行い、現実的な金額水準へ合わせて修正する作業が重要です。あわせて、工事の実施周期を精査し、最適な工事計画を図る視点も欠かせません。
かつては大規模修繕の周期は12年が適切とされていましたが、現代では建築資材の耐久性が向上したため、15年周期や18年周期を採用する管理組合も増えてきています。現在12年周期で大規模修繕を実施しているのであれば、周期の延長を検討してみるのもいいでしょう。
修繕積立金の値上げを検討する
長期修繕計画どおりに修繕積立金を積み立てられていても、工事費の急激な上昇によって資金不足になるケースがあります。資金を確保するために、工事実施を先送りするのも一つの考えですが、建物の劣化が進み、修繕費用がさらに膨らんでしまうかもしれません。
工事内容を精査しても資金が足りない場合は、修繕積立金の値上げを検討する必要があります。値上げは反対が起こりやすいため、修繕コストが高騰している現状とその背景などを説明して、住民の理解を深めたうえで話し合う姿勢が大切です。
マンション大規模修繕のコスト上昇は不可避!現実的な対策を取ろう
マンションの大規模修繕をめぐるコスト上昇は、資材費や労務費の高騰を背景に起こっており、すべての区分所有者が直面している課題と言えます。
多くのマンションでは、10年前の経済状況を前提に工事資金の計画を立てていますが、現在の高騰したコスト水準では当時の計画のまま対応するのは難しいでしょう。管理組合には、修繕積立金の値上げを含めた、現実的な判断が求められます。工事コストの上昇を受け入れたうえで、住民にも情報を共有し、マンションの維持管理に役立つ選択をしましょう。

