
電気自動車(EV)の普及にともない、マンションのEV充電設備は物件価値を左右する重要な要素となりつつあります。2025年4月から東京都では新築マンションへの設置が義務化され、政府の2035年EV100%目標も相まって、今後さらなる需要増が予想されます。一方で、導入にかかるコストや、住民の合意形成などの課題もあります。
本記事では、EV充電設備の基本知識から具体的な設置手順、活用できる補助金制度まで詳しく解説します。
マンションにEV充電設備は必要?
東京都では、2025年4月以降に建設される新築建物のうち一定条件や基準にあった物件に対してEV充電設備の設置が義務付けられています。現時点では全国的にEV充電設備の設置は必須ではないものの、この動きは、今後他の自治体にも広がる可能性があるでしょう。
政府は2035年までに新車販売における電気自動車の比率を100%とする目標を掲げており、それにともないEV充電設備の需要は急速に高まると予想されています。実際に、国内のEV保有台数は年々増加傾向にあり、2024年には前年比19%増となりました。
今後は、駐車場のあるマンションではEV充電器の有無が資産価値を左右する可能性もあります。購入希望者や入居希望者にとって、自宅でEV車を充電できるかどうかは、物件選びの大きなポイントとなるでしょう。
マンションにEV充電設備を設置する方法
個別設置型
個別設置型は、各区分所有者の専有区画に充電器を設置し、専用で充電器を利用する方法です。
好きなときに好きなだけ充電でき、車を移動させる手間がない点がメリットといえます。
一方で、専用区画の数分の充電器が必要になるため、設置や運用のコストが高くなりやすい、マンションの電気容量の制限によっては設置が難しいといった懸念点も。また、既存のマンションに新設する場合は、配線工事が複雑になる可能性も考えられます。
シェア型
シェア型は、マンションの共有駐車スペースに充電器を設置し、居住者同士がシェアして利用する方式です。
一般的に個別設置型よりも設置や運用コストを抑えられるほか、限られたスペースで設備の数も少なく効率的に多くの居住者がEV充電を利用できる点がメリットです。
ただし、充電設備利用のための予約などにより希望の日時に利用できなかったり、充電のたびに車の移動が必要になるなどの不便さがデメリットになり得ます。
またマンション全体の設備として管理するために、ルールや費用負担の仕組みを新たに考え、総会で承認を得る必要もあるでしょう。
しかし現状では、EV車を保有している人もまだ多くはないため、シェア型が主流となっています。
マンションに設置できるEV充電設備の種類
普通充電器

EV充電器の種類は大きく分けて「普通充電器」と「急速充電器」の2種類があります。
普通充電器には「コンセント型」と「ポール型」の2種類があり、急速充電器に比べて設置単価が安いのが特徴です。
コンセント型は壁面などに取り付ける簡易的なタイプで、設置コストが10万円前後と比較的安価といえます。ポール型は地面に独立して設置するタイプで、設置コストは100万円以上とやや高めな傾向にあります。出力はコンセント型が1.6kW〜3kWである一方で、ポール型は3kW~6kWと高い出力が可能です。
基本的にマンションに設置するEV充電器は、普通充電器のなかでもコストと利便性のバランスから管理しやすいポール型がおすすめです。
急速充電器

急速充電器は、高速道路のSAやPA、道の駅などにも設置されている、短時間で充電が可能な高出力な充電器です。
50kW以上の高出力にも対応しており、普通充電器と比べて圧倒的に短時間で充電ができます。
ただし、設置コストや保守費用は高くなりやすく、電気設備の大幅な増強が必要になる場合が多いです。小中規模の一般的なマンションへの設置はあまり現実的ではないかもしれません。
マンションにEV充電設備を設置するメリット
資産価値が向上する
EVの普及が進む現代では、充電設備の有無がマンションを選ぶポイントにもなりつつあります。
実際に、不動産市場ではEV充電設備を備えたマンションの人気が高まっており、将来的に設備がある物件は売却時や賃貸時に有利になると考えられています。言い換えれば、EV充電設備のないマンションは資産価値が低下するおそれもあるといえるでしょう。
住民の満足度が向上する
充電環境が整えば、EVに関心のあるマンション居住者にとってEV購入の障壁が少なくなります。「マンションだからEVは充電がネックだ」という制約がなくなれば、居住者の満足度は大きく向上するでしょう。
実際、自宅で充電ができれば、公共充電ステーションなどに行く手間を省けます。特に悪天候の日や、公共充電ステーションが混雑している時期には、自宅充電の便利さを実感できるでしょう。
マンションにEV充電設備を設置するデメリット
少しずつ普及しつつあるEV充電設備の導入ですが、いくつかのデメリットも存在します。
まず最も大きな課題となるのが導入コストの負担です。導入費用は設備メーカーによって異なりますが、一般的な目安は1基あたり50万~150万円程度とされています。コンセント型を4基設置した場合は約150万円、ポール型1基で130万円程度必要というデータもあります。
また、定期的な保守点検費用など設置後の維持管理コストも考慮しなければなりません。EV充電器の電源はマンション共用部の電気を使用するため、充電料金の設定と納めてもらうための方法、トラブル発生時の対応など、事前に明確なルールを設けておく必要があります。特に共用型の場合は、利用時間や順番、予約の管理方法などについても取り決めておくとよいでしょう。
マンションにEV充電設備を設置する手順
設置までの計画を立てる
EV充電設備を導入するためには、まず現状と将来の需要を見据えた計画作りが不可欠です。
計画段階では、現在のマンション内のEV所有者数を把握し、今後数年間でどの程度増加する可能性があるかの予測から始めましょう。
次に、マンション内で最適な設置場所を検討し、その場所の電力容量が充電設備の導入に十分かどうかを確認する必要があります。
マンションの規模や住民のライフスタイルに合わせた充電設備の利用ルールについても考慮しなければなりません。例えば予約制を採用するのか、充電料金をどのように設定し納めてもらうのかなど、具体的な運用方法を事前に決めておくとよいでしょう。
計画と並行して、総会決議を踏まえて住民に納得してもらえるような資料作成も進めましょう。
総会決議を行う
設置までの計画を立てたら、総会決議を行います。
EV充電設備の設置は共用部分に関わる工事となるため、管理規約に基づき、通常は区分所有者の過半数または特別多数の賛成を得る必要があります。特にEV充電設備に対する知識や関心は住民によって大きく異なるため、誰にでもわかりやすい資料を用意しましょう。
場合によってはEV充電器の設置にともなって、管理規約の変更や細かい運用ルールを定めた使用細則の制定が必要になるかもしれません。管理規約の変更は、区分所有者の3/4以上が総会に出席している状態で、議決権総数の3/4以上の賛成が必要な特別決議が必要です。使用細則の制定は、管理組合の過半数が総会に出席している状態で、議決権の半数以上の賛成で可決される普通決議で決めます。
総会では、導入の目的とマンションにもたらすメリットを明確に説明し、具体的な設置場所と設置台数についても詳しく解説することが望ましいです。また、導入にかかる総費用と各戸の負担額を具体的な数字で示し、導入後の運用ルールと維持管理方法についての説明もすれば、住民の不安を軽減できるでしょう。
EV充電器設置業者に説明会を実施してもらうのも効果的です。専門家からの説明は説得力があり、技術的な質問にも的確に回答できるため、住民の理解を深めやすくなります。
施工業者を選定する
EV充電設備の設置には専門的な知識と技術が求められるため、信頼できる業者選びが欠かせません。
業者選定は、まず複数社から見積もりを取得し、工事費用やこれまでのマンションへの施工実績、アフターサポート体制についても十分に比較検討をしましょう。EV充電設備はワンタイムの工事で終わるのではなく、長期的な関係になる可能性が高いため、保証期間や保守契約の内容も詳細にチェックしておくと安心です。
また、見落としがちなポイントとして、充電の際に利用するアプリ等の使いやすさも重要な選定基準です。充電設備の利用は、その提供業者が開発したアプリケーションを通じて行うケースが多いため、実際の操作感や機能性が設備の使い勝手に大きく影響します。可能であれば、デモを見せてもらったり、すでに導入している他のマンションでの評判を聞いたりして、使い勝手を事前に確認しておきましょう。
設置工事を実施する
業者を選定し、現地調査を終えたら設置工事を実施します。工事の流れは以下のようになります。
1:事前調査(電気容量、配線ルート、設置場所の確認)
2:工事計画の確定と見積もり
3:居住者への説明と合意形成
4:設置工事
また、EV充電器の運営が始まった後は、国や自治体への実績報告が必要な場合があります。特に補助金を利用した場合は、報告義務があるので忘れないようにしましょう。
EV充電設備の設置には補助金が利用できる
導入コストが気になるEV充電設備も、様々な補助金制度を活用すれば費用を軽減できます。
現在利用可能な主要な制度には、国の「充電インフラ補助金」があります。充電器本体代の50%および設置費用の100%が補助されますが、上限額は充電器の種類や設置場所によって異なるため、事前に詳細を確認しておきましょう。また、申請期間が限られているため、早めの準備と申請が必要です。
東京都では、さらに手厚い支援として「充電設備普及促進事業(居住者用)」という補助金制度があります。マンションの共用部分に設置する場合に適用され、充電設備費と工事費の一部を補助してもらえる制度です。国の補助金と合わせて利用すれば、導入時の自己負担額をより大幅に軽減できます。
これらの補助金を利用すれば導入コストを大幅に削減できる可能性がありますが、申請から承認までには時間がかかる点には注意が必要です。時期によっては申請が通るまでに2ヵ月以上かかる場合もあるため、申請書類の準備や提出時期を逆算して、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。
EV充電設備導入でマンションの資産価値向上を
東京都では2025年4月以降に建設される、一定条件と基準を超える新築建物にEV充電設備の設置が義務付けられ、今後は全国的にもEV充電器の有無がマンションの資産価値を左右する重要な要素になると考えられます。
EV充電器には個別設置型とシェア型があり、マンションの特性や住民のニーズによって適した種類が異なります。また、導入時には設置計画やマンション内の総会決議など、事前準備が欠かせません。現在、カシワバラ・コーポレーションでは、グリーンビジネス推進プロジェクトの一環として、東京都のEV設置義務化にともなうサポート事業を推進しています。マンションへのEV充電設備の導入を検討されている、東京都内のマンション管理組合の方々がいらっしゃいましたら、是非弊社にご相談ください。
マンションの資産価値向上のためにEV充電設備導入を検討している場合、国や自治体の補助金を活用し、計画的に導入を進めていきましょう。