



「どの施工業者に依頼するか?」は、大規模修繕の成功を左右する重要な要素のひとつです。
沢山の選択肢がある業者選定で、理想の1社をこちらから見つけ出すのは至難の業といえます。では逆に、施工業者側から提案してもらう手はいかがでしょう?
今回は大規模修繕の施工業者を「公募する」方法について解説します。
最も公平性の高い業者選びの方法は公募
大規模修繕を実施するためには施工業者への依頼が不可欠ですが、業者を選定する方法はマンションによってさまざまです。マンションを建てた建設会社やその関連会社に依頼している場合や、管理会社から推薦された施工業者や管理会社自体に工事を依頼しているところもあるなど、施工業者を決める方法はたくさんあります。
数ある中で、比較的公平性が高い決め方と考えられるのが公募による選定です。この場合の公募とは、マンション側から大規模修繕の工事を請け負う施工業者を募る方法を指します。公募に参加する施工業者はマンションに対して、自社のサービスや価格帯などの魅力をアピールして受注を目指します。大規模修繕は1回の工事で大きなお金が動くので、業者からしても公募への参加は高い意義を持つでしょう。
公募には、どのような工事を実施するのかを記した「工事仕様書」を管理組合で作成し、それに基づいた提案を募る方法と、各社に工事仕様書の作成から依頼する方法、設計監理方式を採用する際に設計事務所などに仕様書作成を依頼する方法の3パターンがあります。
管理組合で仕様書を作成する場合、業者側からこちらの要望から大きく外れた提案を受ける可能性は少なくなりますが、各社の提案が似たり寄ったりになり、施工費用だけが焦点になりがちです。この方法を選ぶ際は、最安値の見積もりを提案してきた業者と、安易に契約してしまうパターンに陥りやすいので注意が必要です。コストが安いのは大きなメリットですが、「安かろう悪かろう」という言葉があるように、金額の安さに比例して工事の質やサービス内容が悪い場合も考えられます。必ずコスト以外の内容も含めて総合的に吟味したうえで、判断するようにしましょう。
業者に仕様書の作成を依頼するパターンでは、各社の提案内容自体に違いが出ることが多いため、価格だけで選ぶ事態にはなりづらくなります。特に中規模以上のマンションでは工事をする作業内容が多く、業者ごとに提案内容の違いが出やすい傾向があります。そのため、小規模マンションと比較して公募による選定の効果が高くなると考えられます。
設計事務所が作成する場合、依頼先となる設計事務所の実績確認が欠かせません。特に、分譲マンションの大規模修繕工事に携わった実績があるかどうかが大きな判断基準となります。 特定の施工会社と深いつながりがあり、中立性に欠けている場合も考えられるため、利益相反がないかも含めて事前に確認しておきましょう。
施工業者を公募するメリットとデメリット
公募は公平な決め方ではありますが、実施するに当たっていくつかのメリット・デメリットがあります。それぞれどのような点が考えられるのかみていきましょう。
公募のメリット
知名度に関わらず、さまざまな業者をフラットに比較できる点はメリットといえるでしょう。公募は管理組合から施工業者の条件を指定し、条件に合致する業者が名乗り出る形で進みます。それまで名前を聞いたこともなかった業者から、管理組合のニーズにピッタリ合致するような提案を受ける可能性もあります。参加する業者の提案書から、各社の提案内容を容易に比較できるのも魅力となります。
参加する業者間で価格競争が発生する点も、大きなメリットです。選ばれる業者は1社だけなので、公募で受注を得るために、なるべくコストを抑えた提案をする業者は決して少なくないでしょう。
公募のデメリット
選定に手間がかかる点は公募のデメリットです。管理会社に紹介をしてもらう方法であれば、管理会社からの提案だけで即決できますが、公募となると、工事仕様書の作成や業者の提案書のチェックなどに労力を割かなければなりません。
理事会や修繕委員会が主体となって進めることになるため、メンバーの意欲が高くなければ、公募を進めるうえで何かと苦労が絶えない状況になることも予想されます。
公募の進め方
まずは、理事会や修繕委員会で施工業者の選定方法を検討しましょう。検討の結果、公募方式が採用されたら、公募の募集要項の整理を進めます。
募集要項には、資本金・経営規模などの条件を指定した応募資格や必須の提出書類、応募受付期日などを記載します。この際の条件設定は重要で、条件が緩すぎると応募が多く集まりすぎてチェックが大変になる場合も考えられますし、逆に条件が厳しすぎると応募企業が想定より少ないかもしれません。管理会社と相談するなどして、適正な条件を設定しましょう。
応募が集まったら書類審査で候補企業を数社に絞り込み、残った企業の選考に進みます。残すのは2〜5社が妥当でしょう。あまり多く残すと、次に実施するヒアリングに手間と時間を要することになってしまいます。
ヒアリングでは、書類選考で残った業者に対面で提案内容のプレゼンテーションをしてもらいます。業者の担当者から直接説明を受けることになるので、企業の雰囲気や誠実さなど印象も伝わってくるので、そのような点も加味して判断できます。
しかし結果、依頼する1社を絞り込めたらそこで完了、とはなりません。選定結果について、総会で承認を得る必要があります。
この業者を選んだ理由、ほかの候補と比べてどこが優れていたのか、など、業者選定の判断が妥当であったということを、ヒアリングに参加できなかった管理組合員に伝わるように説明する必要があるでしょう。例えば選定した業者の担当者に総会に参加してもらい、管理組合員からの質疑応答に対応してもらうのも手です。後々の大規模修繕開始後の工事に関しての住民とのトラブル回避にも効果を発揮するでしょう。
今回は、施工業者の公募について解説をしました。手間と時間はかかりますが、公平でメリットも多い方法だといえます。ただし、業者を選定する方法はこれがベストということではありません。
各々のマンションの状況に応じて、適切な方法を管理組合内で充分に検討をして、業者の選定方法を決めましょう。
イラスト:平松 慶