大規模修繕を控えた皆さんに向けて、修繕工事のいろはを説明していくこの連載。今回は、階段の劣化と修繕の方法について解説していきます!
非常時の避難経路である階段はメンテナンス必須

大規模修繕では階段の修繕も大切です。竣工から年月が経過していくと、階段も徐々に劣化していき、鉄筋コンクリート製であればひび割れ、鉄骨製であれば錆びの発生などが起こります。マンションの美観が損なわれるというだけではなく、劣化によって階段の強度が低下すると住民の安全に関わるため、メンテナンスは重要です。修繕せずに長年放置していると、転んでケガをする人が出てくるかもしれません。
普段はエレベーターばかりで階段は使用していないとしても、火災や地震などの非常事態が発生した際には、階段で避難することになります。そのため、階段を安全に利用できる状態に保つのは重要性が高いのです。
内階段と外階段で修繕傾向は異なる
建物の階段は大きく「内階段」と「外階段」の2つに分類されます。内階段は建物の内部に設置される階段で、外階段は屋外にあるものをそれぞれ指します。両者は劣化や修繕の傾向に違いがあるので確認していきましょう。
内階段の劣化とメンテナンス
内階段は直射日光や雨風に晒されることがないので、劣化しにくいイメージですが、竣工から年月が経てば経年劣化は当然起こります。
エレベーターがあっても、低層階の住民は階段を利用することも多く、日常的に人が通ることで劣化が進んでいきます。湿気の影響や雨の日には濡れた靴や傘を持って通る人もいるため、屋内であるからといって水を原因とした劣化が起きないわけではありません。
多くの場合、内階段は鉄筋コンクリート造です。前述の通り、鉄筋コンクリートは経年によってひび割れが発生するため、補修が求められます。ひび割れを放置していると、内部に水や湿気が入り込んでしまい、それが鉄筋の錆びなどの劣化の原因となり、耐久性が低下する恐れがあるので要注意です。
階段の表面は防水効果のある長尺シートやウレタン防水材などでカバーをしていることがほとんどですが、これらは定期的な張り替えが必要です。長尺シートもウレタン防水材も10〜15年が耐用年数の目安ですので、大規模修繕を実施する都度交換していくイメージで考えておくといいでしょう。
外階段の劣化とメンテナンス

内階段とは異なり、外階段は常に屋外の自然環境に晒される部分です。マンションにおける外階段は鉄骨造が多く、雨で錆びが発生するリスクがあるので要注意。
鉄骨には多くの場合錆防止のための塗装がされますが、紫外線や雨風の影響によって時間の経過とともに塗装が剥がれていってしまう場合があります。塗装が剥がれた部分に水が浸入することで、内側の鉄部が錆び化のリスクに晒されてしまうのです。
塗装が剥がれても放置したままで、錆びが進行してしまった鉄骨は強度が弱くなるため、利用時の安全性に問題が発生してしまうこともあります。
このような状況を回避するためには、定期的な塗装の塗り直しが必要です。塗り直しを実施するべき周期の目安は、塗料の種類によって異なります。
例えばアクリル塗料は3〜5年が耐用年数とされており、ウレタン・シリコンの塗料は5~7年。フッ素塗料は8〜15年と、大きな違いがある点は覚えておきましょう。
すでに塗装が剥がれ、錆びついてしまった部分の補修は、まずは「ケレン」と呼ばれる錆の除去作業を行い、その後に塗装を塗り直します。
あまりにも錆びが進行してしまい、錆を落としても安全に利用できないと判断される場合は、外階段をまるごとリフォームすることも検討してください。
階段の大規模修繕では確認申請は基本不要
壁、柱、床、梁、屋根、階段の6種は、建築基準法で防火や安全の観点から重要とみなされている「建物の主要構造部」に分類されます。
建築基準法では、1種以上の主要構造部を過半にわたり修繕や模様替えをする場合は、自治体の建築主事に建築確認申請をする必要があると定めています。そのため、階段を修繕する場合、確認申請の手続きが必要になると考えている人は少なくないでしょう。
しかし、実際のところは劣化した部分の補修や錆びの除去だけでは、「過半」とはみなされないことが多く、一般的な大規模修繕では申請は不要と考えられる場合もあります。また、外階段は主要構造部に構造上重要な部分とはみなされてはいないため、主要構造部に含まれない点も知っておきましょう。
ただし、外階段をリニューアルする場合には申請が必要となるケースもあるので注意が必要です。例えば、外階段を非常時の避難経路として規定しているマンションでは、外階段を取り替える場合、確認申請が求められるケースがあります。
既存の階段と新しく取り替える階段に、材質、形状、構造の違いがあるケースでも申請が必要になる場合があります。ややこしいですが、考え方としては階段の性能が変わるようなリニューアルをする場合には、申請が必要となるケースがあると覚えておきましょう。
今回は階段の修繕について解説してきました。内階段は劣化に気づきにくい部分なので、前回の修繕から何年経過したかを管理して、適切な時期を見逃さないようにしましょう。
外階段は、比較的錆びが発生しやすい箇所なので、大規模修繕の時期以外にも劣化が進行していないかをチェックするようにしてください。
イラスト:平松慶

