
長年にわたりマンションで暮らすなら、大規模修繕は必ず実施しなければなりません。そのために管理組合で準備する修繕積立金は、時には億単位にも昇ります。
それだけ高額な資金のため、管理は厳密にするべきです。実際に、資金管理の手落ちによって、横領などのトラブルに遭ってしまったマンションも過去には多く存在します。
この記事では、そんなトラブルを回避するための資金管理方法を紹介するので、自身の管理組合の管理が不十分だと感じたら、参考にしてください。
マンション修繕積立金の管理方法
普通預金
最も多くの管理組合で利用されている管理方法は、普通預金です。国土交通省による令和5年度マンション総合調査の管理組合向け調査結果(重複回答可)では、76.8%を占めています。
資金が必要になったらすぐに引き出せる換金性の高さは、ほかの管理方法にはない大きなメリットといえるでしょう。
注意したいのは、ペイオフ(預金保護)制度の対象である点です。この制度により、金融機関が破綻した場合のペイオフ (預金保護)で保証される金額が、1000万円までとなっています。
リスクを抑えるには、破綻するかもしれない可能性を見越して、ひとつの金融機関への預金額が1000万円を超えないように預金先を分散させておくのが基本です。
定期預金
定期預金は、全体の35.1%のマンションが利用中との結果が出ています。
定期預金は普通預金よりも金利が高く設定されている点が特徴です。一方で、満期前に換金する場合は中途解約手続きが必要なので、換金性は普通預金に劣ります。あらかじめ、解約時期を大規模修繕の実施時期に合わせて設定しておけば、賢い活用方法となるでしょう。
ただし、災害など不足の事態によって建物に緊急の修繕が必要になった場合は、中途解約しなければならない場合も考えられます。中途解約する場合は、予定していた利率よりも低い「期限前解約利率」が適用されるため、注意が必要です。
決済性預金
決済性預金は、普通預金や定期預金とは異なり、ペイオフの対象とならない預金です。そのため、1000万円以上預けている金融機関が破綻しても、預金は全額保証されます。
ただし、制度上利息がつかないので、運用による金銭的メリットは得られません。
調査対象となった管理組合の内、25.6%が決済性預金を利用しているという結果が出ています。
マンションすまい・る債
19.1%の管理組合が利用していると回答した「マンションすまい・る債」は、住宅金融支援機構が発行する債券で、大規模修繕の資金作りをサポートするために作られています。
1口50万円から購入可能で、毎年1回利息を受けられる点がポイントです。2024年度の実績では、10年満期時年平均利率は0.500%でした。満期は購入から10年後で、このときに元本と同額分の金額が戻るので、全体で見ると利息分が管理組合のプラスになります。
さらに、「手数料無料で中途解約が可能」「残高証明書の発行に手数料がかからない」といったメリットも。
利用には、「管理規約が定められていること」「長期修繕計画の計画期間が20年以上であること」といった条件があるので、注意してください。また、年度ごとに応募受付期間が設定されているので、応募時期にも気をつけましょう。
積立型マンション保険
積立型マンション保険の利用も、全体の1.4%ありました。この保険は、マンション共用部分に火災が発生した場合などの「補償」と、満期時に満期返戻金を受けられる「積立」の2つの機能を併せ持った商品です。
保険期間は3〜10年程度で、元本は満期まで補償されます。
ただし、超低金利の時代になると「積立」面でのメリットが低減しました。さらに、「補償」の面で内容に差がなく、価格が安めな「掛捨型保険」が主流となってきたため、現在では積立型マンション保険は各保険業者で販売停止が相次いでおり、新規の利用はできない状態となっています。
修繕積立金の杜撰な管理はトラブルの原因になる危険性を持つ
修繕積立金は適切に管理しなければ、集めた資金を横領されてしまう危険性があります。
過去には、理事長や会計担当理事、管理業務を委託する管理会社などによる着服事件が多数発生しています。
マンション管理は大金が動くため、被害額は数千万から1億円を超える規模になるかもしれません。被害に遭わないためにも、資金の適切な管理が大切です。
マンションで修繕積立金着服が発生しやすい状況4選
【その1】管理組合の会計処理の不透明性
管理会社は、会計の収支報告書を毎月管理組合に提出する義務があります。管理会社が報告書を提出しない場合は、管理組合で収支状況を把握できず、不正があっても気がつけなくなるので必ず報告を受けましょう。
また、管理会社が報告していても、理事会が報告書を確認していなければ、管理できていないのと同じです。確認体制の不備については、総会での決算や残高証明の確認も同様で、内容を伴わない形式だけの確認で済ませている管理組合は少なくありません。管理組合の予算はマンション全体の問題なので、厳密な管理体制を敷いて取り組みましょう。
また、修繕積立金と管理費の区分を仕分けていないと、悪意のある管理者にとってごまかしやすい状況になります。管理を担当する管理会社社員や理事長、会計担当理事に「不正利用できる」と悪巧みさせないためにもしっかりと区分を分けましょう。
【その2】理事長の権限集中とチェック機能の欠如
理事長の権限が強く、周囲の理事が会計業務を理事長任せにしているパターンも、不正が発生しやすい状況です。
特に、同じ人が長年にわたり理事長に就任し続けているマンションでは、理事長以外の人が資金の運用状況を一切把握していないケースも考えられ、その気になれば容易に不正ができてしまいます。理事長や会計担当者が独断で支出を決められる状態になっている管理組合は、注意が必要です。
健全な状態で運営するためには、会計権限者以外の人によるチェック体制が機能していなければなりません。監事は理事会の運営状況をチェックする役割を持つので、監事の業務内容についても見直しましょう。
【その3】管理会社の管理体制の不備
管理会社の体制の不備に原因がある場合も考えられます。例えば、管理会社内部の管理体制が不十分で、従業員が不正をしても気づけない場合です。管理組合の社内管理が不十分だと感じたら、委託先の変更を検討するべきかもしれません。
また、管理組合から管理会社へ委託する業務の内容が曖昧になっていると、管理会社の職員に必要以上の権限を与えてしまい、不正しやすい環境になってしまいます。そのため、委託する管理業務は明確に取り決めしておき、範疇を超える業務をしていた場合は、理由や経緯を厳密にチェックしましょう。
【その4】会計業務の重要性の認識不足
会計担当者はその気になれば小口現金の着服などをしやすい役職なので、倫理観が欠如している人が就任すると危険度が高まります。そのため、会計担当者は信頼できる人間性を持つ人物を選ばなければなりません。
また、管理組合の会計業務に対するチェック体制の甘さが問題になるパターンもあります。会計業務をチェックできる人員が少人数しかいなければ、その分、確認作業で見落としが発生する可能性が高まります。
会計業務は、管理組合における資金管理の重要性を考えて、取り組みましょう。
修繕積立金の着服や使い込みを防ぐ方法
犯罪行為である修繕積立金の着服が、世間で多く発生しているのは、限られた人物が簡単に口座から大金を引き出せる状況を作ってしまうことが大きな原因と考えられます。
そのような状況をつくらないために、印鑑は理事長、通帳は管理会社が分別して保管するなど、金融機関との取引に必要な貴重品を分散して管理する体制が求められます。
また、不正利用を発生させないためにも、大金の引き出しや振り込みを行う際には、誰か一人に任せるのではなく、必ず2名以上で行動するようにルール化しておきましょう。
管理会社の横領を防ぐためには、必ず月次の収支報告書の提出を受けるようにして、疑問に思う箇所があれば納得できるまで質問しましょう。
倫理観がない担当者であっても、「チェックが厳しい管理組合」という印象を与えれば、不正をするリスクが高いと判断されて、被害に遭わずにすむでしょう。
不安に思ったら会計業務の見直しを実施
修繕積立金や管理費が不足してしまうと、マンションの管理は成り立ちません。そのため、管理組合にとって、資金の不正利用が発生しない仕組みづくりは非常に重要です。
現行の管理体制に不安を感じるのであれば、資金の管理方法や管理体制の見直しに早急に取り組んでください。