
マンションのなかには地震の被害を抑えるために、免震装置を設置している建物があります。免震装置は地震発生時の稼働、時間の経過で性能が劣化するため、定期的な点検が欠かせません。
ここでは、免震装置の耐久年数に加え、適切な点検の内容や頻度を紹介します。
免震設備は3年以内の点検が必要な場合がある
建築基準法では「特定建築物」に該当する共同住宅について、定期的な点検と報告を義務付けています。
特定建築物の指定条件は都道府県によって異なり、例えば東京都では5階建て以上で、延べ床面積が1000平方メートル以上の共同住宅が該当します。
「特定建築物」の敷地および構造は、3年に1回の頻度で定期点検が必要です。この点検が必要な設備には、一般的に免震装置が含まれます。なお、最初に行う点検は、建物完成後6年以内に実施すれば良いとされています。
2つの構造で地震の揺れを食い止める!
免震建物では地面(基礎)の上に免震装置を設置。その上に建物が乗る構造となっており、地震の際には免震装置が揺れを吸収します。
免震装置は主に「アイソレーター」と「ダンパー」という、2つの部品で構成されています。
アイソレーターは地震の揺れが建物に伝わるのを防ぐ装置です。大きく3つの種類があり、揺れを吸収する仕組みが異なります。
・積層ゴム:ゴムと鋼板を交互に積み重ねています。地震の際は水平方向にゆっくりと揺れ、揺れを吸収します。
・すべり支承(ししょう):柱と地面を固定していないのが特徴です。地震の際には地面の上で柱が水平方向に滑り、建物の揺れを抑えます。
・転がり支承:柱の下にボールベアリングを設置。ボールベアリングは地面に設置したレールの上に乗っており、地震の揺れを吸収します。
一方、ダンパーは建物の揺れをおさえ込み、アイソレーターによって軽減した揺れを、さらに軽減します。
積層ゴムの耐久年数は60年以上!約100年保った実績あり
アイソレーターのなかでも多くの建物で利用されている積層ゴムは、老化防止剤によって耐用年数を延ばしています。
国内における免震建物の約70%が2000年以降の建築物のため、免震装置の長期運用における耐久性は実証されていません。
ただし、オーストラリア(メルボルン)で使用された世界初の天然ゴム防振パッドは、設置後 96 年目の調査で「表面から5mm以上の内部では劣化が見られなかった」ことが確認されました。高熱環境下における劣化試験では、「積層ゴムの耐用年数は60年以上ある」との結果も出ています。
免震装置の点検は全部で6種類ある
目視での「通常点検」は毎年1回実施
免震建物を維持するには、大きく分けて6種類の点検が必要とされています。
・竣工時検査:竣工時に免震性能の初期値を計測するための点検
・通常点検:免震機能の異常を発見するために、目視で行う点検
・定期点検:免震性能を計測するために、定期的に行う点検
・応急点検:地震や水害などに被災した際に、目視で行う点検
・詳細点検:免震装置に異常があった際、詳細を確認するために行う点検
・更新工事後点検:免震性能に影響を及ぼす工事のあとで行う点検
このうち、一般的に年に1回行われているのが通常点検です。
通常点検は免震装置の異常や不具合を、早期に発見するのが目的です。塗装の劣化や錆の発生など、装置の不具合を目視で確認します。
例えば、積層ゴムは作業時のミスや地震によって損傷する場合があります。ほかにも、ゴムを固定するボルトが緩む恐れもあるので、免震性能を維持するためには定期的な点検が必要です。
「定期点検」は10年周期で耐震性能をチェック!
建物の竣工後5年〜10年後に実施し、以降は10年ごとに行われるのが定期点検です。
定期点検では積層ゴムの変位、建物の位置(水平)、建物と地面のクリアランス(すき間)などを計測。竣工時検査もしくは前回の検査の計測結果を元に、免震装置の劣化状況を確認します。
免震建物の点検は、一般的に日本免震構造協会が発行する『免震建物の維持管理基準』を元に行われています。建築基準法では点検を怠った場合の罰則はありませんが、点検の不備によって第三者に被害があった場合、法律による罰則を受ける可能性があります。
災害後には応用点検!免震装置の状態を確認
地震や強風によって免震装置が作動した場合、もしくは水害や火災などによる装置への影響が予想される際に行うのが応急点検です。目視によって免震装置の被害状況を確認します。
応急点検が必要な地震や強風の規模は、建物の設計者が設定します。最寄りの地震計や気象台で、設定値以上の災害が確認された場合には、点検を行いましょう。
一般的には震度5弱以上の地震、平均風速30m/s以上の強風があった場合は、応急点検が必要とされています。ただし、大地震のあとには余震の発生が予測されるため、危険が予測される場所には近づかないでください。
大震災のあとは建物の被害状況を早めに確認
内閣府「大規模地震発生直後における施設管理者等による建物の緊急点検に係る指針」では、大規模地震発生後は専門家による点検がすぐに行えないケースが想定されることから、応急的に建物の安全を確認する方法がまとめられています。
専門知識を持たない管理者などが建物の安全確認を行うには、設計者などの専門家と共同でカルテやチェックシートを作成し、平常時から安全確認を行っておくと良いでしょう。また、被災者の受け入れを判断する人物は、事前に決めておく必要があります。
被災時の安全確認ではマンションや周囲にある建物の損傷を確認し、落下物などによる危険がある場所への立ち入りを禁止してください。
なお、免震装置の応急点検では、一般的に以下の内容をチェックします。
・積層ゴムの傷や損傷、ボルトの緩みなど
・免震装置の可動範囲の安全
・建物と地面のすき間を埋める「エキスパンションジョイント」のズレや破損
建物の被害状況を早期に確認できれば、余震による二次被害を防止し、居住者の安全を守れます。
免震装置を正しく維持し、住民を守る
免震装置は地震による揺れを抑え、建物の損傷を防ぎます。免震装置は複数のパーツで構成されていますが、このうち積層ゴムは寿命が60年以上あるといわれています。ただし、耐久性能を正しく発揮するには、適切な点検が必要です。
建築基準法では一定の階数や床面積のあるマンションについて、定期的な点検が義務づけられています。特に大規模な地震が発生した際には、安全性を確認するためにも、応急点検を行ってください。免震装置を適切に点検することで、住民の安全を守り、建物の資産価値を守れるでしょう。