2025年1月、マンション管理士による外部管理者・外部監事の導入を支援する中立的な支援機関一般社団法人 日管連管理組合サポートセンター(以下、NKS) が発足しました。
今回は、NKS理事長・高辻潤司氏、副理事長・柴田龍也氏、同・山田勤氏に加え、管理会社の立場としてカシワバラ・デイズの取締役である寺川達郎氏を迎え、座談会を開催。
前編では、NKS設立の背景となるマンション管理の現状について伺いました。
写真右から左の順で、
一般社団法人日管連管理組合サポートセンター 副理事長 山田 勤 (マンション管理士)
一般社団法人日管連管理組合サポートセンター 理事長 高辻 潤司 (マンション管理士)
一般社団法人日管連管理組合サポートセンター 副理事長 柴田 龍也 (マンション管理士)
株式会社カシワバラ・デイズ 取締役 寺川 達郎 (マンション管理士)
マンション管理士と日管連

高辻:まず前提として、マンション管理士の役割をご存じでしょうか。マンション管理士は、2001年施行の「マンション管理適正化法」に基づく国家資格で、管理組合の運営や修繕計画に関する助言など、マンション管理を専門的立場から支援します。
寺川:「マンション管理適正化法」が制定された背景に、マンションを適正に維持する仕組みが不足していたことによって、管理業務の適正化や透明性確保の必要性が社会的に強く認識されたことがありましたね。
高辻:そうした流れの中で、管理会社の登録制度や業務規制が整備されると同時に、専門知識をもって管理組合を支援する資格者として創設されたのがマンション管理士です。
柴田:管理組合の理事会は区分所有者の持ち回りが基本で、多くの方が初めて運営に関わります。しかも役員は毎年交代することが多く、理解が深まった頃に任期が終わる。その繰り返しにより、専門的知見が蓄積されにくかったり、管理組合運営に継続性を持たせにくいという課題があります。
寺川:例えば、人件費や物価高騰によって長期修繕計画に変更が生じたり、修繕積立金が不足する可能性が出てきた場合でも、どの程度見直しが必要かを判断することは、一般の方には難しいですよね。
高辻:そもそも長期修繕計画の仕組みや考え方を十分理解すること自体、簡単ではありません。
柴田:訴訟なら弁護士、税務なら税理士に相談するように、マンション管理士は管理組合運営において問題が起こる前の「リスク予防」の観点から伴走する専門家と言えます。
編集部:現在、国内でマンション管理士はどれくらいいるとされているのでしょうか。
高辻:試験合格者は累計で4万人以上います。ただし資格保有者の中には他業務に従事している方も多く、専業として活動している方は少数に限られています。マンション管理士の全国組織として一般社団法人日本マンション管理士連合会※(以下、日管連)があり、所属会員は全国で約1,700人です。NKSは、この日管連を母体として設立された支援機関です。
編集部:日管連ではどのような活動を行っていますか。
高辻:各都道府県のマンション管理士会の支援、研修会の開催、普及啓発活動などを行っています。また、国土交通省※の施策にも協力しており、2022年開始の「管理計画認定制度※1」の相談ダイヤル運営も受託しています。
※1 管理計画認定制度:管理組合の運営や修繕計画が国交省の基本方針に基づく一定の基準を満たし、適切な管理を行っているマンションを地方自治体が認定する制度
外部管理者方式の現状:人手不足から注目される外部管理者方式

高辻:NKS設立の背景には、マンション管理を取り巻く様々な課題があります。
寺川:まず、深刻な人手不足の時代ですよね。管理会社のフロント担当、管理員、清掃スタッフ、さらには管理組合役員の担い手不足が顕在化しています。
高辻:管理組合役員のなり手不足は深刻で、私が関わる築50年超のマンションでは区分所有者の多くが70歳代から80歳代の高齢。理事会としての継続的運営が難しい状況です。
寺川:高齢化に加え、都心部では賃貸化や投資目的所有の増加により居住者不在の住戸が増え、役員が固定化するケースも目立っています。
高辻:こうした状況から、従来は区分所有者が担ってきた管理組合運営を外部専門家に委ねる「外部管理者方式」が注目されています。
外部管理者を任せる先は二択

高辻:外部管理の選択肢は主に二つあります。一つは管理会社に運営も含めて委ねる方法、もう一つはマンション管理士や弁護士など第三者専門家に委ねる方法です。
寺川:管理会社が管理者を兼ねる場合には色々な留意点が指摘されていますね。
高辻:はい。管理会社が管理者となる場合、管理業務の受託者であると同時に意思決定主体にもなるため、利益相反の懸念が生じ得ます。適切な監督体制を整えることが重要です。
寺川:管理会社は営利企業である以上、収益確保の視点が必要となります。一方、管理組合運営は基本的に営利目的とはならない訳で、そういったことから透明性確保の仕組みづくりが重要です。国土交通省からは、2026年4月に施行される改正マンション管理適正化法によって規制が大幅に強化されると周知されています。
高辻:特に新築マンションでは管理会社が管理者に就任する外部管理者方式の導入例も増えています。役員負担が軽減される点はメリットですが、意思形成の機会が減る可能性もあり、慎重な運用が求められます。
編集部:区分所有者が意見を述べる機会はどうなるのでしょう。
高辻:総会が中心になりますが、日常生活の場でもある住まいの管理について意見が反映されにくくなる懸念があります。その点、第三者専門家は中立的立場から助言できる存在です。マンション管理士には信用失墜行為の禁止義務も課されており、公平性の担保が期待されます。
マンション管理士に依頼するハードル

寺川:第三者委託が進まない理由の一つに費用面が挙げられますね。管理会社は管理業務と一体化した料金体系を提示できますが、マンション管理士への依頼は別途費用が必要となります。
高辻:だからこそ公平性や専門性の価値を理解していただく必要があります。
柴田:国土交通省のガイドラインでも、管理会社が管理者を務める場合は監事を第三者に依頼することが望ましいとされていますが、「誰に頼めばいいのか分からない」という声は多いですね。
高辻:日管連にはマンション管理士の紹介機能がなく、全国的な相談窓口として課題がありました。
柴田:さらに、資格者間の経験差もあります。資格に合格したらマンション管理士は名乗れるけれど、全てのマンション管理士が管理組合に対し 顧問や的確なアドバイスができるのかというと、やはり差がある。
高辻:資格だけでは実務能力は測れません。その課題を解決するため、NKSでは研修と基準を整備し、一定レベルの支援が可能なマンション管理士を管理組合の管理者や監事として紹介できる体制を整えました。
柴田:マンション管理士に依頼するハードルを低くするために生まれたのがNKSです。具体的な仕組みは後述しますが、誰もが一定のレベルに達する研修を行い、きちんとサポートできるマンション管理士を紹介する態勢を整えました。今はNKSに依頼いただければ、スキルや経験を持ったマンション管理士をスムーズに紹介することができます。全国規模でそれができるのは、おそらくNKSだけじゃないでしょうか。
管理組合と管理会社とマンション管理士。三位一体の関係が理想

編集部:管理会社の立場から見て、管理会社による「管理」とマンション管理士による「管理」とで違いを感じることはありますか?
寺川:大きな違いは、立場の違いにあります。管理会社は管理組合運営を円滑に進めるサポートをするという受託者としての責務があるものの、必ずしも管理組合の利害と一致するとは限りません。一方、マンション管理士はあくまでも中立的な立場で助言をするため、結果として相互に牽制が働きます。
高辻:その牽制関係こそ健全な状態です。
寺川:対立関係ではなく、三者間が協力していくことで良い管理が実現できると思います。
高辻:以前は対立的な関係も一部見られましたが、これからは共生の時代になっていくべきかと思います。
寺川:マンション管理士は、管理会社や工事会社の提案が妥当か確認するセカンドオピニオン的な役割としても有効です。
高辻:近年は管理組合と管理会社双方の調整役としての役割も重要になっています。未だ管理組合から管理会社への理不尽な要求が見られる場面もありますし、最近は、生成AIが気軽に使えるようになったこともあり、誤った回答内容を用いた反論など、管理会社側が苦慮する場面も増えています。
寺川:管理会社から管理組合に対しての十分な説明ができていないケースもあったりするので、そこは「質」を担保するという面では管理会社側の課題でもあります。
高辻:一方で、管理組合から管理会社への過度な要求が生じるケースもあります。その際、第三者が客観的に説明することで合意形成が円滑になります。
寺川:契約関係上、管理会社から言いにくいこともありますから、中立的な助言は非常に助かることがあります。
高辻:例えば、2025年にマンション標準管理規約※2 が改正されました。管理会社としては、管理組合に対して管理規約の改正を説明していかなくてはならない。そうすると、「では、お願いします。」と簡単に言われてしまいます。ただ、今回の改正に伴う管理規約見直しでは、管理会社の通常業務範囲を超える対応が必要となり、どのように提案していくかを模索している管理会社も多いと思います。
そうしたとき、専門家の関与により現実的な進め方を示すことができます。管理規約の改正はマンション管理士に依頼するなど選択肢を広げることによって、管理会社としてはフロント担当が複雑な業務を抱えなくてもよくなるので、助かると思います。
寺川:管理会社の担当者の経験値は、どうしても差が生じてしまうもので、管理規約改正などの高度な専門知識が必要な場面では、マンション管理士の支援により一定の精度を確保できることになります。特に今回のような大幅な改正は、対応範囲がかなり膨大となるので、当社も一定数は外部委託することを推奨しています。
高辻:適度な緊張関係を保ちながら三位一体で取り組むことが、より良い管理につながると考えています。
寺川:そうですね。健全なパートナーシップ的な関係性を築いていきたいものですね。
(後編に続く)

