マンション管理士による外部管理者・外部監事の導入を支援する中立的な支援機関「一般社団法人 日管連管理組合サポートセンター(以下NKS)」の理事長・高辻潤司氏、副理事長・柴田龍也氏、同・山田勤氏と、管理会社の立場であるカシワバラ・デイズの取締役である寺川達郎氏を迎え、座談会を開催。後編ではNKSの具体的な取り組みを伺い、今後のマンション管理のあり方を考えます。

写真右から左の順で、
一般社団法人日管連管理組合サポートセンター 副理事長 山田 勤 (マンション管理士)
一般社団法人日管連管理組合サポートセンター 理事長 高辻 潤司 (マンション管理士)
一般社団法人日管連管理組合サポートセンター 副理事長 柴田 龍也 (マンション管理士)
株式会社カシワバラ・デイズ 取締役 寺川 達郎 (マンション管理士)
安心して管理を任せられるNKSの仕組み:マンション管理士の質、管理組合の財産、業務遂行の三つを担保

編集部:NKS設立にあたり、管理組合がマンション管理士を導入しやすくする仕組みは整えられているのでしょうか。
高辻:まず重要なのは、マンション管理士の質の担保です。NKSの母体である一般社団法人日本マンション管理士連合会※1(以下、日管連)では「認定マンション管理士研修」を実施しており、外部管理者方式や国土交通省※2の管理計画認定制度などに対応した専門研修を修了し、試験で一定水準を満たした者のみが「認定マンション管理士」として認められます。NKSでは、この認定マンション管理士の中から適任者をご紹介します。
柴田:日管連内の認定制度ではありますが、「どのレベルの人が紹介されるのか分からない」という不安の解消につながっています。
高辻:さらに、管理組合財産を守るための仕組みも整備しています。保険の仕組みを活用した制度が二つあります。一つは「マンション管理士賠償責任保険」です。助言や業務遂行に過失があった場合の損害賠償責任を担保するもので、業務内容に応じた補償内容が設定されています。外部管理者を担当する場合の手厚いプランもあり、例えば業務上の責任により組合に損害が生じた場合、最大1億円(プランにより異なる)まで補償されます。
もう一つが「管理組合損害補償金給付制度」です。管理者として管理組合の保管口座印鑑を保持する場合、万が一の不正行為等に備え、最大3億円を限度に補償される仕組みです。管理組合資産の保全という観点で大きな安心材料となります。
編集部:これらの制度は任意加入なのでしょうか。
高辻:認定マンション管理士には賠償責任保険の加入を義務付けています。管理組合損害補償金給付制度についても、保管口座印鑑を預かる場合は加入を必須としています。個人で活動する専門家に依頼する際の不安の声を受けて整備したものです。さらに、人的な担保も重要です。個人に依頼している場合、病気や事故などで業務継続が困難になる可能性があります。NKSでは、万一の際には速やかに代替の管理士を派遣できるバックアップ体制を整えています。
外部管理者に限らない、マンション管理士との関わり方

編集部:今後はマンション管理士による外部管理のニーズが高まる印象ですが、どのようなタイミングで相談するのがよいのでしょうか。
柴田:設立から約1年で問い合わせは増えていますが、当初は「外部管理者になってほしい」という相談でも、話を伺うと「自分たちも関わりたい」「費用面が心配」など事情はさまざまです。実際には、いきなり全面委任となるケースは多くありません。
高辻:例えば、国土交通省のガイドラインでは、管理会社が管理者を務める場合、監事に第三者専門家を置くことが望ましいとされています。そのため、監事就任に関する相談も多く寄せられています。監事は、業務と会計の適正性を確認し、総会へ報告する役割を担います。業務監査では理事会出席や業務執行状況の確認、会計監査では決算書類のチェックを行います。弁護士や税理士に依頼する例もありますが、実務と会計の両面に対応できる点はマンション管理士の強みです。
柴田:「管理会社が管理者、監事に管理士」という形や、「理事会を維持して副理事長として参画」など、各管理組合の事情に合わせて柔軟に関われる形を設計しています。決まった型があるわけではありません。
高辻:NKSでは相談対応や情報提供も行っています。制度理解や体制検討の段階からご相談いただけます。
今後、加速するマンション管理の問題点:三つの高齢化と資金不足

高辻:現在のマンション管理業界では「三つの高齢化」が課題です。
①区分所有者の高齢化
②管理業務従事者の高齢化
③建物の老朽化
寺川:管理会社に関しては、冒頭お話したように、フロント担当や管理員などの現地スタッフの人員不足や高齢化により、管理を撤退するといった例も全国で見られます。そういったことも相まって、外部専門家の力が必要になる場面が増えています。
高辻:特に築年数の経過した小規模マンションでは、管理委託の受け手が見つかりにくくなっています。
寺川:かつては小規模マンションでも受託例が多くありましたが、現在は難しいケースが増えています。「自分たちは高齢化が進んで管理組合運営が難しい」、「でも管理会社が見つからない」、結果として管理不全に陥っていくといったリスクが懸念されています。
柴田:築年数の古いマンションでは設備改修費用が大きく、数千万円規模の支出が必要になることも珍しくありません。1住戸の分譲価格が1億円前後で販売されているにも関わらず、設備は古いままということも見受けられます。実際、エレベーターや給排水管、機械式駐車場などの取り替えが次々に必要になって、数千万から数億円の費用がかかる改修工事を管理会社が提案していかなくてはならない。管理会社からすると、手間がかかるので、やっぱり築浅のマンション管理を手掛ける方がいいですよね。とは言っても、築40年、50年を超えるマンションはどんどん増えていくので、なんらかの対策はしていかなくてはならない。
高辻:日本でマンションが建設され始めたのは、約70年前で、意外と歴史は浅い。今後、築50年を超えるマンションなどは再生するのか、終焉を迎えるのかなど、優先順位の整理や資金計画の見直しなど、専門的判断が必要な場面が増えています。こうした分野は通常の維持管理業務の範囲を超えることも多く、専門家の関与が有効です。
編集部:修繕積立金が不足しているケースも多いのでしょうか。
高辻:国土交通省の調査でも、3割以上のマンションで修繕積立金の不足が問題との調査結果も出ています。加えて近年の工事費上昇により、従来の長期修繕計画では不足する可能性が高まっています。実勢価格を反映すると更に不足するという結果は明らかで、これから本当に大変です。
「自分のマンションを自分で守る」意識の低下

編集部:そもそも日本における初期のマンションでは、管理はどのように行われていたのでしょうか。
寺川:先ほど、高辻理事長からもお話があったように、日本でマンションが普及し始めたのは高度経済成長期の頃ですが、当初は現在のようなマンション管理会社というものは存在していませんでした。主に清掃や設備点検など、「建物維持管理」のビルメンテナンス会社に委託することが主流だったと言われています。
その後、マンションの急激な増加と居住形態の複雑化によって様々な課題やトラブルが生じたことから、管理組合の運営支援を行うマンション管理会社が誕生しました。
高辻:郊外型団地では自主管理が一般的で、清掃員と管理人のみ配置する形態も多く見られました。
寺川:かつては「自分たちの資産は自分たちで守る」という意識が強かったのですが、近年はコミュニティ意識の希薄化とともにその考え方が弱まってきています。
柴田:若い世代では効率性を重視する傾向もあり、理事役員の負担を敬遠する声も少なくありません。
高辻:ただ、マンションは区分所有者の財産です。外部委託の利便性だけでなく、費用負担や意思決定の影響も含めて理解することが重要です。
柴田:管理組合や管理会社の役割がイメージしにくいんですよね。分譲マンションを購入する多くの方は、もともとは賃貸居住経験の方で、賃貸マンションの管理の仕組みと同じように捉えている場合があります。賃貸マンションでは管理会社に言えばある程度やってくれますが、それは大家さんがいてのこと。分譲マンションでは、自分達が大家さんだという意識が低いんです。
例えば修繕計画を自分たちが決めていくんだと気がつくのは、最初に理事会役員の順番が回ってきた時が多く、「自分たちで決めるんですね」「理事ってそういうことなんですね」と話す方もいれば、さらに言うとそれすら気付かず任期が終わってしまう方も結構多い。分譲マンションでは自分自身が“所有者”であるという認識を持つことが大切です。
自治体への働きかけ

山田:こうした課題を踏まえ、自治体への働きかけも進めています。例えば、とある県では、外部管理者等の専門家関与費用の一部を補助する制度があります。首都圏でも同様の仕組みが検討できないか、現在働きかけているところです。
寺川:自治体の支援があれば外部管理者導入のハードルは下がりますね。
山田:マンションが多い都市部と戸建住宅が多い郊外や地方では事情も異なるため、なかなかマンションだけに予算を割り当てる訳にもいかず、予算確保が容易ではない実情があります。
高辻:マンション居住率の高い自治体、特に都心部では施策が進みやすい一方、地方では優先順位の問題があります。
柴田:それでも自治体の危機意識は年々高まっており、無料相談会など専門家派遣の機会は増えています。今後は相談にとどまらず、管理組合の顧問や外部管理者、外部監事としての継続的関与の仕組みづくりが課題になるでしょう。これは私の持論ですが、古いマンションにはマンション管理士の介入を義務化とし、国や自治体で一部の費用を負担する体制を整えていくなどしないと、浸透していかないように思います。
時代に重宝されるマンション管理士という選択肢

編集部:日本のマンションで、マンション管理士が関与している割合はどの程度でしょうか。
高辻:全国的には1割未満と考えられます。ただし認知度は着実に向上しており、近年は依頼増加により対応が難しい場合も出てきています。
柴田:一方で受け手となるマンション管理士の数は十分とは言えず、人材育成も重要な課題です。
高辻:自治体による相談会や、インターネットなどで情報収集したりなどの引き合いが多くなっているのは事実です。あとは、新築マンションで管理会社が管理者を兼ねる事例が増えているので、今後、外部監事のニーズはさらに高まるでしょう。
柴田:外部管理者方式は万能ではありませんが、有効な選択肢の一つです。目的や状況に応じて適切に選択することが重要です。
高辻:海外居住オーナーの増加など管理の難易度は高まっています。新制度(国内管理人制度※3)による対応も進められていますが、管理の担い手不足という課題は続きます。
柴田:シニアマンションも増えていますが、理事会を運営していくことはなかなか難しい。一方で、自分で住むマンションの管理も見ておきたいという人は、理事会に積極的に参加すればいい。ただし実質的に困難な場合、外部管理者方式を選択することは合理的な判断と言えるでしょう。重要なのは、信頼できる専門家や組織と連携することです。外部管理者や外部監事が必要となったとしても、「信用できる管理者や監事ってどのように探せばいい?」となったとき、それを提供できる組織が今までなかったのですが、NKSはそこを補う組織だと思います。
高辻:個人ではなく組織として支援体制を整えた点がNKSの特徴です。管理会社、マンション管理士、管理組合が三位一体で取り組むことが不可欠です。
寺川:それぞれの役割を尊重しながら協力することが理想です。外部管理者方式や外部監事方式は今後さらに広がっていくことが推測され、その際の選択肢のひとつとしてNKSの役割に期待しています。
※3 日本国外に居住するマンションの区分所有者に代わり、日本国内で管理費の支払い、総会通知の受領、議決権の行使などを行う代理人を置く制度

