映画、テレビ、執筆活動など、多岐にわたる分野で活躍中のリリー・フランキーさん。カシワバラ・コーポーレーションがスポンサーを務めるTOKYO FM放送の『スナック ラジオ』(毎週土曜16:00-16:55放送)ではマスターを務め、ゲストやアルバイト女性店員のしゅうさんなどと共に、リスナーからのメッセージに、独自の目線でトークを展開し、そのユニークな内容が人気を集めています。
『○○さんの暮らし』第1回目では、多彩な才能を持つアーティスト、リリー・フランキーさんの独特な暮らしと仕事の関係性について掘り下げ、ご自身のアトリエを中心とした生活スタイルや物との関わり方、住まいに関する思いなどを伺いました。
プロフィール
1963年生まれ、福岡県出身。
イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、多分野で活動。初の長編小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」は06年本屋大賞を受賞、また絵本「おでんくん」はアニメ化された。
映画では、『ぐるりのこと。』(08/橋口亮輔監督)でブルーリボン賞新人賞、『凶悪』(13/白石和彌監督)と『そして父になる』(13/是枝裕和監督)で第37回日本アカデミー賞優秀助演男優賞(『そして父になる』は最優秀助演男優賞)など多数受賞。第71回カンヌ国際映画祭では、主演を務めた『万引き家族』(18/是枝裕和監督)がパルムドールを受賞。
近年の主な出演作に、主演を務めた『コットンテール』(24/パトリック・ディキンソン監督)、『ちひろさん』(23/今泉力哉監督)、『アンダーカレント』(23/今泉力哉監督)、『アナログ』(23/タカハタ秀太監督)、『ファーストキス 1ST KISS』(25/塚原あゆ子監督) 、『ルノワール』(25/早川千絵監督)、『ハルビン』(25/ウ・ミンホ監督)など。
――最近ではフランスをはじめ、韓国、イタリア、ベトナムなど各地に足を運び、多忙を極めていらっしゃるようですが、オフの日はどのように過ごされていますか?
オフの日、つまり外に出かけない日は主にデスクワークをしています。外での撮影の場合、監督がOKを出した時点で仕事が終わりますが、家での仕事は自分が納得できるまで終わらないため、どちらかといえば自宅での仕事の方が辛いことも多いですね。執筆の仕事が多かった時期には、月に原稿を120本ほど抱えていました。それに合わせてイラストも描いていたので、仕事場で朝方4時くらいまで働き、その後家に帰るというのはかなりハードでした。むしろその場で寝たいという気持ちが先に立つこともありました(笑)。そんなわけで、自宅をなくしてアトリエに住むことにしたんです。
――仕事場=暮らしの空間という感じなのでしょうか?
多分、暮らしているという感覚を持ちたくないのだと思います。もし家庭があって、妻や子供がいる状況だったら、また違ったのかもしれません。いわゆるスタンダードな暮らしの様式ではないので、整った家があってそこに帰るという感覚ではないわけです。アトリエにいても自宅にいても仕事をするのであれば、効率が良い方がいいと思うわけです。福岡から大学進学で上京して以来、仕事のために東京にいるという感覚が強いのかもしれませんね。アトリエには、画材やカメラ、楽器などが思いついたらすぐに手に取れる範囲にあり、さらにデザインしている下着がたくさんラックにかかっていて、マネキンがあり、自分の好きなアート作品や本、CD、レコードが溢れている……みたいな状況です。他人が見たら訳がわからないかもしれません(笑)。
――リリーさんにとって、寝食の場も兼ねたアトリエは、暮らしの空間というより、ご自身の気に入ったものだけを集めた基地のような感覚に近いのかもしれませんね。
そうですね。以前ナレーションを担当した、DIYで趣味やこだわりを詰め込んだ部屋を紹介する『部屋と、リリーと』(TVQ九州放送・カシワバラ・コーポレーション提供)に出てきたような、個性あふれる部屋の持ち主の心境には共感できます。とはいえ、インテリアを考えるのは好きですが、結局はものに溢れてインテリア自体が崩壊してしまうわけで。残るのは、元々この場所がおしゃれな空間だったのだろうなという残像だけ。でも、快適性だけを追求していくと、結局は個性を失わざるを得ない部分が出てくるのだろうなとも思います。僕の場合は、おしゃれな空間におしゃれな照明を置きたいわけでもなくて……。おそらく一人の人間が暮らしていくのに必要な空間は、せいぜい6畳くらいで足りるのではないでしょうか。ただし、今はものが非常に多いので、今のアトリエがあるマンションの別のフロアに全くものを置かない部屋を借りるのも良いかもしれないとも考えているんです。
――その中でも特にこだわりを持って選んでいるものはありますか?
やはり、一番使う時間が長いベッドですね。今使っているのは寝具としては高価なマットレスなのですが、横向きになって寝ても肩が体重の重みに沿って沈んでくれるのが心地いいんです。ベッドの他に、眼鏡も高くても良いものを選んだ方がいいと思っています。使っている時間が長いわけですから、コストパフォーマンスを考えるとお得ですよね。
――確かにそうですね。一方で暮らしの必需品以外の場合、歳を重ねるにつれてものへの執着が高まる人と、どんどんものを捨てていく人に分かれてくるのではないかと思うのですが、リリーさんの場合はいかがですか?
最近は、高価な楽器や価値のあるアートは人にあげ始めています。特に質の良い楽器はミュージシャンが持っていた方が管理も良いし、弾かれる機会も多いでしょう。だから、自分が持ち続けているものは、人にもらったものや他人や世間の評価とは関係なく、自分が良いと思って購入したものだけです。今、毎日使ってる物は、親友にもらったモノばかり。時計も、遠心力で動く自動巻き時計なので、気づいたら止まっていることもありますが、こういうものはお守りのような感覚に近いのかもしれません。自分で買ったものの思い出よりも、人から頂いたものの方が、その人との関係性が思い出されるため、捨てられず大切にしていきたいと思います。
――ものを通して、人生で関わり合った人を思い起こすのは素敵な瞬間ですね。暮らしのスタイルが多様化している今、例えばご出身の福岡と東京の二拠点暮らしの可能性や、老後の暮らしのあり方についてはどのようにお考えですか?
僕の場合、福岡に戻ったらもう東京に戻ることはないでしょうね(笑)。単純に面倒くさくなってしまいます。二拠点暮らしができる人は、真面目にちゃんとできる人だと思います。おそらく、18才で上京した時と同じような暮らし方で、老いていく気がしてますねぇ。
以前出演した映画「Diamonds in the Sand」(日本・マレーシア・フィリピンの国際共同製作)では、独居老人の孤独死が題材になっていましたが、その時フィリピン人の監督がフィリピンでは孤独死という問題があり得ないと話していました。孤独死に至らなくても、50代が80代を介護する「5080問題」のようなことが日本では至る所で起こっていて、結局親族殺人に至るケースも珍しくありません。日本で普通に起きていることが、海外ではあり得ない問題として取り上げられているのを見ると、起きた問題をどう裁いていくかということよりも、根本的な問題の解決というか、老後の暮らし方について、もっと考えていく必要があるでしょうね。
これからは、個性を大切にしつつ、程よい距離感を保ちながら生き生きと暮らせるライフスタイルの提案とか、老後の住まいのあり方自体に変革が必要な時代なのかもしれませんね。

