近年、大規模な地震やこれまでにない規模の台風、集中豪雨など、自然災害のニュースに触れる機会が増えています。特に、2011年の東日本大震災をきっかけに、防災意識とともに保険への関心が高まった方も多いでしょう。大切な資産である「戸建て」にお住まいの方にとって、万が一の事態に備える保険は非常に重要です。しかし、「住宅ローンを組むときに言われるがまま入ったきり」「火災保険には入っているけれど、地震保険はよくわからない」という方も少なくないのではないでしょうか。
そこで、保険の専門家である株式会社カシワバラ・パートナーの羽藤泰弘さんに、戸建てオーナーが知っておくべき火災保険と地震保険の必要性から、意外と知られていない保険の仕組みや、知っているとお得なメリットについて詳しくお伺いしました。
なぜ必要? 火災保険と地震保険に入るべき理由

自動車の自賠責保険とは異なり、火災保険や地震保険は法律で加入が義務付けられているものではありません。では、なぜ多くの人が火災保険に入る必要があるのでしょうか?また、火災保険に付帯している「地震保険」とはどんなものなのでしょうか。
火災保険の必要性:「失火責任法」と住宅ローンの存在
最大の理由は、日本の法律「失火責任法」にあります。もし隣家が火事になり、ご自身の家に燃え移ってしまった(もらい火)場合、隣家に重大な過失がない限り、損害賠償を請求することはできません。日本の住宅は木造で密集していることも多く、火災被害が広がりやすい特性があります。つまり、「自分の家は自分で守る」という自己防衛が不可欠で、そのための最も有効な手段が「火災保険」です。
ほとんどの方が住宅ローンを組む際に、金融機関から火災保険への加入を求められています。これは、万が一火災で建物が失われても、ローンの返済だけが残るという最悪の事態を避けるため。ただし、注意したいのはローン完済後です。ローン完済後は任意で保険を継続することもできますが、様々な事情で保険を継続しなかった結果、火災に遭ってしまったというケースも聞かれるため、現在の加入状況を確認することは大切です。
火災保険ではカバーできない「地震の被害」

「火災保険に入っているから、地震で火事が起きても大丈夫」と思っていませんか? それは大きな誤解です。地震、噴火、またはそれらによる津波を原因とする火災や建物の損壊、流失、埋没などは、火災保険の補償対象外になっています。そして、これらの損害をカバーできるのは、地震保険だけです。
東日本大震災以降、地震保険への関心は高まり、火災保険に地震保険をセットでつける「付帯率」は約70.4%に上ります。しかし、全世帯での「世帯加入率」で見ると約35.4% と、まだ低いのが現状です。これは、そもそも火災保険に加入していない世帯が一定数いることも影響しています。

地震保険は、すべての損害を元通りに復旧させるため(現状復旧)の保険ではなく、被災後の「生活再建を支援するため」の保険と位置づけられています。「被害のすべてを補償するものではありませんが、当座の生活資金としてまとまったお金が受け取れることは、被災後の精神的な支えにもなります」と羽藤さん。
仕組みを知ろう! 火災保険と地震保険のキホン
二つの保険の仕組みと違いを正しく理解することが、賢い保険選びの第一歩です。
火災保険の仕組み:補償範囲は「火災」だけじゃない

「火災」保険という名前ですが、その補償範囲は非常に広いのが特徴です。火災はもちろん、落雷、風災(台風など)、雪災、雹(ひょう)災、水災(洪水、ゲリラ豪雨による都市型水害など)といった自然災害もカバーします。さらに、「建物外部からの物体の飛来・落下・衝突」も対象です。例えば、「台風で看板が飛んできて外壁が壊れた」、「自動車が自宅に突っ込んできた」といった被害も補償されます。
保険料は、事故率や確率論をベースに算出されますが、主に以下の要素で決まります。
- 建物の構造(木造か鉄骨かなど)
- 築年数
- 所在地・地域(ハザードマップ上のリスクなど)
- 建物の用途(専用住宅か店舗併用かなど)
近年は自然災害の増加に伴い、保険料は全体的に上昇傾向にあります。かつては30年以上の長期契約も可能でしたが、予測が難しくなったため、現在は最長で5年となっています。
地震保険の仕組み:火災保険とセットで加入

地震保険には、火災保険とは異なる重要なルールがあります。
- 単独加入は不可: 地震保険は、必ず火災保険とセットで加入します。火災保険のオプションとして「付ける」イメージです。
- 補償額の上限: 地震保険の保険金額は、セットで加入する火災保険の保険金額の最大50%までと決められています。さらに、「建物は最大5,000万円まで」、「家財は最大1,000万円まで」という上限もあります。
- 保険金の使途は自由: 受け取った保険金は、必ずしも壊れた家の修理や家財の買い替えに使う必要はありません。被災者が優先順位をつけて自由に使うことができます。当座の生活費、避難先への費用、ローンの返済など、生活を立て直すための資金として活用できます。
- 損害認定: 損害の程度に応じて「全損(100%)」「大半損(60%)」「小半損(30%)」「一部損(5%)」といった区分(※保険会社や時期により異なる場合があります)に認定され、保険金額に対して決められた割合の保険金が支払われます。
意外と知らない! お得なメリットと活用術
保険は「払い損」と思われがちですが、賢く活用できる制度や、いざという時の請求のコツがあります。
活用しよう! 地震保険の「割引制度」
戸建て所有者の中でも、特に比較的新しい家にお住まいの方は、地震保険料の割引を受けられる可能性が高いです。
- 免震建築物割引(最大50%)
- 免震構造の建物であることが証明できる場合。
- 耐震等級割引(等級に応じ変動)
- 住宅の耐震等級(1~3)に応じて割引が適用されます。
- 建築年割引(10%)
- 1981年(昭和56年)6月1日以降に建てられた建物。これは現在の新耐震基準を満たしているとみなされるためで、最も適用しやすい割引です。
これらの割引を適用するには、「建築確認書類」「住宅性能評価書」といった証明書類を保険会社に提出する必要があります。新築・購入時のファイルに眠っていないか、ぜひ確認してみてください。
東日本大震災で明暗を分けた「家財」保険
東日本大震災で羽藤さんが担当したケースでは「ある耐震性能の高いお宅を訪問した際、建物自体の損害は『一部損』でした。しかし、家の中は家具が倒れ、食器が割れ、ひどい状態でした。もし『家財』の地震保険に入っていれば保険金支給対象だったのですが、その方は残念ながら『建物』にしか地震保険を付けておらず、家財の被害については保険金をお支払いできませんでした。一方で、建物と家財の両方に加入されていた方は、生活再建のための資金をしっかり受け取ることができたというケースもあります」と、実体験を話してくれました。
耐震性の高い家でも、揺れによって家財が被害を受けることは十分にあり得ます。また、意外なところでは、石造りの外構(塀)がすべて倒れてしまい、その修理費が数百万かかったものの、建物の地震保険だけでは「一部損」の支払い(保険金額の5%)にしかならなかったため、修理費の工面に苦労されたケースもあったそうです。
万が一の時! 保険金請求の3ステップ

もし災害に遭ってしまったら、パニックにならず、以下の手順を思い出してください。
- 写真を撮る: まずは落ち着いて、被害状況の写真を撮ってください。片付ける前に、どの程度の被害があったかを記録しておくことが重要です。
- 修理見積もりを取る: 修理業者に連絡し、修理にいくらかかるか見積もりを取得します。
- 保険会社に連絡: 写真と見積もりが揃ったら、保険会社や代理店に連絡して請求手続きを進めます。
大規模災害の場合は、被災者からの連絡を待つのではなく、保険会社側から契約者を訪問して、迅速な保険金支払いに動く体制も取られています。
また、「保険を使うと翌年の保険料が上がるのでは?」と心配する方もいますが、火災保険や地震保険には自動車保険のような等級制度はありません。保険を使ったからといって、個人の保険料がすぐに上がるわけではないので、ためらわずに請求しましょう(ただし、災害の増加により、将来的に全体の保険料が改定されることはあります)。
ご自身の保険を見直してみませんか
災害はいつ起こるかわかりません。今こそ、ご自身が加入している保険を確認し、火災保険の加入状況、また地震保険が付帯しているか、さらに今お住まいの地域の特性について知ることで、最悪の事態を回避することができます。
- ステップ1:リスクを知る
まずは、お住まいの自治体が発行している「ハザードマップ」を確認してみましょう。
ご自宅に洪水、土砂災害、地震による液状化などのリスクがどの程度あるのかを把握することが、適切な保険設計の第一歩です。 - ステップ2:保険証券を確認する
もし、火災保険に加入されているのであれば、保険証券から以下の3点を確認するのをおすすめします。- 地震保険は付帯していますか?
- 補償対象は「建物」だけになっていませんか?
- 「家財」にも地震保険は付帯していますか?
- ステップ3:割引のタネを探す
新築時や購入時の「建築確認書類」「耐震等級証明書」を探してみましょう。もし見つかれば、保険料が割引になるかもしれません。
戸建てという大切な資産を守り、万が一の際にも家族の生活を再建できるように、火災保険と地震保険は「建物」と「家財」の両方に加入しておくことがベストな選択と言えます。
ご自身の保険内容が最適かどうかわからない、ハザードマップを見たけれどどう判断すればいいか迷うという方は、一度、保険の専門家に相談してみることをお勧めします。

